年下彼氏の結婚指導
「もう」
 一息吐いて華子は翔悟をじとっと睨んだ。
「っ、……ごめんなさい」
 ……そんな風に謝られたら怒れなくなってしまうけど。翔悟がこっそりとそう評価しているように、華子はお人好しだった。

「だって俺、今日が最後なのに……」
「──え、ええ」
 華子は一瞬躊躇する。
 最後。その言葉以上に、目の前の翔悟の様子に華子は落ち着かない気持ちになる。
(いつもの廉堂君と違う……)
 取り繕ったものとは違う。一週間前に見た、プライベートの翔悟の顔。
 今日は垂れた耳と尻尾が見える。

「それなのに……てっきり仁科さんは俺を労ってくれると思ってたから……」
「え、ごめ……」
 自分の心を優先して距離を取った挙句、好きな人の気持ちを疎かにしてしまった。
 そう気がついて華子は言葉を濁した。
(……私、何も変わってない)
 ふと堅太の顔が思い浮かぶ。
 歩み寄りが足りなかった時間……

 吊り合いが取れないのを言い訳に、翔悟を傷つけて良い訳ではないのに。
 シュンと落ち込む翔悟に華子の罪悪感が募る。
「ごめん、配慮が足りなかったね」
 華子は申し訳ない思いで顔を上げた。
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