自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「ヒナちゃんは心房中隔欠損症という病気です」
隼人院長は心臓の模型を診察台に乗せ、飼い主に説明を始めた。
「ここに心臓があります。心臓には四つお部屋がありますがヒナちゃんの場合、お部屋とお部屋の間にある壁に穴が開いているんです」
「前の先生が言ってた病気ですよね?」
前医は診察ミスで上下の穴を間違えて片野さんに説明されていたけれど、ややこしくなるからか敢えて隼人院長は「はい、心臓の病気です」と答えただろうと思う。
こっちはこっちで治療してあげれば良いんだから、前医を巻き込むのは賢明ではないもんね。
「ヒナちゃんの心臓は上側にある左右二つのお部屋の間に穴が開いています。心房中隔欠損症の心房というのが、お部屋のことです」
「原因はなんでしょうか?」
「原因は不明な病気なんです」
これだけ獣医学が発展しても、まだまだ原因不明の症例は数多くある。
「検査結果からも穴は大きくなっていると思います。だから少し走ると疲れたりしているはずです」
「最近ですね、ヒナの様子がおかしくなったのは」
「ヒナちゃんは階段を登ると動悸がしたりしていたはずですが、今まであまり症状を感じてこなかったのです」
ヒナを安心させるためなのか、隼人院長は自分の腕の中にすっぽりとヒナを包み込み撫でている。
「なぜなら生まれたときからこういう状況しか知らないためです」
「ヒナは生まれつきなんですか?」
「生まれつきです」
「ヒナが死んじゃう」
飼い主が慌てたように目に見えて動揺している。
「先天性心疾患を持っていたとしても、ヒナちゃんは生きる力があって生まれてきた子ですよ」
そうだよ、ヒナは生きる力がある強い子。隼人院長の笑顔に飼い主は少し安心した様子。
落ちるか生きるかでいえば、決して大丈夫とは言わない隼人院長はある意味誠実な獣医。
心疾患はなにが起こるか予測不能、今のままで手術をすることなく様子見をしていた場合、安易に大丈夫とは軽々しく言えない疾患。
「この年齢になってヒナちゃんは呼吸困難、動悸、息切れ、脈拍の乱れが出てきたのだと思います」
隼人院長は症状があり穴が大きくて心臓と肺への負担が大きい場合には、穴を閉じる手術をおこなう方向で考えていることを飼い主に伝えた。
「もしヒナちゃんが僕の家族なら、今ぐらい大きな穴が開いたままでは良くないので穴を閉じる手術をします」
一応、検討してもらおうと思ったのか隼人院長は手術についても説明している。
「手術は胸骨を切って胸を開いて、人工心肺を使って心臓を一時的に止めて、人工のパッチを縫い付けて穴を閉じる修復手術です」
「ずいぶんと手が込んだ手術ですね、後遺症とか色々と大丈夫なんですか?」
「当センターではポピュラーな手術で、よくある手術です」
「安心して大丈夫なんですか?」
少し飼い主の顔が曇っている。まさか手術になるとは思わなかったんだろうと推測出来る。
「安全面でも大丈夫と言っても良い手術ですし、穴も確実に塞げます」
センターで何百件と症例があるから、確かによくある手術ではある。手術としては大丈夫といえる。
「心房中隔欠損症は比較的予後の良い疾患で死亡率は0.3パーセントほどです」
「心臓を止めたりして難しそうな手術なのに簡単な手術なんですか?」
「非常に一般的な外科的手術です。ヒナちゃんの場合、比較的単純な手術ですので小さな傷口で手術がおこなえます」
飼い主が安心した様子。
「手術はどのくらいかかりますか?」
「麻酔から帰室まで三時間程度で終了します」
麻酔の話もしている。
「あと、ひとつ」
「な、なんでしょうか?」
隼人院長は心臓の模型を診察台に乗せ、飼い主に説明を始めた。
「ここに心臓があります。心臓には四つお部屋がありますがヒナちゃんの場合、お部屋とお部屋の間にある壁に穴が開いているんです」
「前の先生が言ってた病気ですよね?」
前医は診察ミスで上下の穴を間違えて片野さんに説明されていたけれど、ややこしくなるからか敢えて隼人院長は「はい、心臓の病気です」と答えただろうと思う。
こっちはこっちで治療してあげれば良いんだから、前医を巻き込むのは賢明ではないもんね。
「ヒナちゃんの心臓は上側にある左右二つのお部屋の間に穴が開いています。心房中隔欠損症の心房というのが、お部屋のことです」
「原因はなんでしょうか?」
「原因は不明な病気なんです」
これだけ獣医学が発展しても、まだまだ原因不明の症例は数多くある。
「検査結果からも穴は大きくなっていると思います。だから少し走ると疲れたりしているはずです」
「最近ですね、ヒナの様子がおかしくなったのは」
「ヒナちゃんは階段を登ると動悸がしたりしていたはずですが、今まであまり症状を感じてこなかったのです」
ヒナを安心させるためなのか、隼人院長は自分の腕の中にすっぽりとヒナを包み込み撫でている。
「なぜなら生まれたときからこういう状況しか知らないためです」
「ヒナは生まれつきなんですか?」
「生まれつきです」
「ヒナが死んじゃう」
飼い主が慌てたように目に見えて動揺している。
「先天性心疾患を持っていたとしても、ヒナちゃんは生きる力があって生まれてきた子ですよ」
そうだよ、ヒナは生きる力がある強い子。隼人院長の笑顔に飼い主は少し安心した様子。
落ちるか生きるかでいえば、決して大丈夫とは言わない隼人院長はある意味誠実な獣医。
心疾患はなにが起こるか予測不能、今のままで手術をすることなく様子見をしていた場合、安易に大丈夫とは軽々しく言えない疾患。
「この年齢になってヒナちゃんは呼吸困難、動悸、息切れ、脈拍の乱れが出てきたのだと思います」
隼人院長は症状があり穴が大きくて心臓と肺への負担が大きい場合には、穴を閉じる手術をおこなう方向で考えていることを飼い主に伝えた。
「もしヒナちゃんが僕の家族なら、今ぐらい大きな穴が開いたままでは良くないので穴を閉じる手術をします」
一応、検討してもらおうと思ったのか隼人院長は手術についても説明している。
「手術は胸骨を切って胸を開いて、人工心肺を使って心臓を一時的に止めて、人工のパッチを縫い付けて穴を閉じる修復手術です」
「ずいぶんと手が込んだ手術ですね、後遺症とか色々と大丈夫なんですか?」
「当センターではポピュラーな手術で、よくある手術です」
「安心して大丈夫なんですか?」
少し飼い主の顔が曇っている。まさか手術になるとは思わなかったんだろうと推測出来る。
「安全面でも大丈夫と言っても良い手術ですし、穴も確実に塞げます」
センターで何百件と症例があるから、確かによくある手術ではある。手術としては大丈夫といえる。
「心房中隔欠損症は比較的予後の良い疾患で死亡率は0.3パーセントほどです」
「心臓を止めたりして難しそうな手術なのに簡単な手術なんですか?」
「非常に一般的な外科的手術です。ヒナちゃんの場合、比較的単純な手術ですので小さな傷口で手術がおこなえます」
飼い主が安心した様子。
「手術はどのくらいかかりますか?」
「麻酔から帰室まで三時間程度で終了します」
麻酔の話もしている。
「あと、ひとつ」
「な、なんでしょうか?」