自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「この病気で突然死はないので心配しないでください。デンと構えて」
 今の隼人院長のひとことで飼い主は腹をくくったようで手術に同意の意思を示した。

「頑張る意欲が湧きました」
「一緒に頑張りましょう」
 獣医が笑ってくれると飼い主は救われるよね。

「術後にまた説明しますが、心臓が安定するまでの約一ヶ月間は激しい運動は避けてください」

「ヒナはおとなしい子だから大丈夫だと思いますが、油断しないで見守ります」

「そうしてあげてください。胸部を強く打ったり転んだり、ワンちゃん同士でじゃれ合ったりして体をぶつけたりしないように気を付けてあげてください」

「うちはヒナだけですが、ワンちゃんのお友だちと遊ぶときは怖いですね。嬉しくて興奮しちゃいそうで」

「ヒナちゃんもお友だちに会えたら嬉しいですし遊びたいですもんね」  
 隼人院長が腕の中に抱いているヒナを撫でながら、なにか言い聞かせているみたい。

「ヒナちゃん、少しだけお友だちと遊ぶのは我慢してね。分かった? 説明は以上ですが、なにか不安なことや質問はございますか?」

「院長先生のお話は分かりやすいです。あと最初に自己紹介をしてくださった獣医さんは初めてで信頼出来る先生だと思いました」

「長くお付き合いするのですから名乗らないと、片野さんに失礼にあたります」

「そういえば、前の病院では先生のお名前を知らないことが当たり前な感じでしたので、院長先生はきちんとしていらっしゃいますね。穏やかでお優しいですし」

 この隼人院長が穏やかで優しいんですか。はぁ、ため息が出る。 

『この貧乏くじ、もう辞めちまえ!』 
『おい貧乏くじ、もういいよ、あとは俺がやっておくから』
 とか言われたし。

 申し訳ない気持ちのまま置いていかれて、その場でポツンと独りはつらかったんだよなぁ。

 それに、ちょっと隼人院長のやり方からズレると『使えねぇ』とか『ド素人じゃねぇんだから、こんな感じにすればいいのに、なんで出来ねぇんだ』とかドぎついことを言う。

 違う先生に指示されたからやったのに怒るし。

 人によって言い回しやケア方法が違うのは当たり前と分かってはいるけれど、隼人院長の言い方には落ち込む。

 隼人院長チーム初日に朝輝先生が教えてくれた、センター人気ナンバーワンは隼人院長って言われて信じられなかった。

 悔しいけれど、飼い主とのやり取りを見聞きしていると分からなくもない。
 その穏やかさや優しさのひとかけらでも良いから、私にくれないかな。

 ダメダメダメ、殻に閉じ込もっちゃった。ヒナの診療に集中集中!
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