自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
***
翌日、絶食絶水で来院したヒナは隼人院長執刀医のもと、無事に手術を終えた。
気になっては時間の許す限り足繁く入院室に行き、ヒナの容態を看ること何回目だろう。
午後イチで看に行ったら徳縄先輩がヒナのケージの前に居る。
さっきもヒナのケージの前に居たよね、なにしているんだろう。
入らずドアの陰で様子を見ていたら酸素飽和度低下アラームが鳴った。
すると徳縄先輩がいち早くモニターに近寄り、なにより先にアラームを消した。
そのあと徳縄先輩はぼんやりヒナを眺めている。消したらダメだし、なにを呑気に見ているの?
慌てて入院室に駆け込んだ。
「さっきから、いったいなにをしていらっしゃるんですか? 何度も何度も酷いじゃないですか」
「何度も見ていたわけ? あんたって陰湿ね」
どっちが陰湿なのよ。
「あんたに濡れ衣を着せるために何度もやってんのよ。誰が見たってポンコツのあんたの失敗だと思うわよ。みんな、私を信じるわ」
私にだけ聞こえる小さな声は耳先に息がかかるほど不気味に近い。
「私なら一向に構いません。でも一生懸命手術をしてくださった隼人院長に危害を加えたら、私が許さないです」
それに、それに。
「なによりヒナが元気に退院すること。それが私たちの願いなんです!」
悔しさのあまり声が大きくなり、騒ぎを聞き付けたのか奥から隼人院長と俊介先生と朝輝先生が続々と出て来た。
「なにかヒナに問題でも?」
隼人院長が私の方を見る。
「酸素飽和度低下アラームを徳縄先輩が消したんです」
私が言い終わるかどうかで隼人院長が徳縄先輩に怒声を浴びせる。
「徳縄お前な、分かんねぇことや出来ねぇことは黙ってやんな! ひとりでやろうとせず、ちゃんと確認しろ。お前は痛くも痒くもないが患者の命がかかってんだ!!」
処置をする隼人院長の怒りは頂点に達しているよう。
「対応出来ないなら助けを呼べば良いし、アラームを消さないでほしい」
凄い剣幕の隼人院長のあとに口を開く温和な俊介先生でさえ、いつもと違って口調が強い。
「ヒナは苦しいんだ! 苦しみから解放してあげるのが僕ら医療従事者の役目だ。それなのに、あんたなにしてくれてんだよ!」
朝輝先生の激しい怒りが徳縄先輩をあんた呼ばわりする。
「違うんです、私の言い分も聞いてください。でたらめを信用するんですか?」
すかさず徳縄先輩が口を開く。
「阿加さんがアラームを消したので注意していました、もう三度ほど繰り返しています。出来なさすぎて怖いです」
なんて人なの、徳縄先輩の方が怖いよ。
「いいえ、徳縄先輩が何度も消していました。きっとヒナの術後管理が分からないんだと思います」
「人のせいにして酷い。それに私が術後管理が出来ないとでも思っているわけ?」
「出来るなら、なぜアラームを止めた? 術後管理が出来る人間がアラームを止める理由はただひとつ、故意的にしかない」
隼人院長の冷静な指摘は図星を指した。
その瞬間、部屋いっぱいに張り裂けるような殺気が満ちるのが肌で感じる。
みんな突っ込まず徳縄先輩に冷たい視線で静かな怒りを向けている。
私だったら耐えられない、死ぬほどつらい状況。
「出てけ!」と言う、隼人院長の怒鳴り声に弾かれるようにして徳縄先輩が入院室を飛び出しかけた。
すると、朝輝先生が失望と怒りをかき混ぜたような声で「バカヤロウ!! 本当に出て行くバカがいるか!」と怒鳴り、徳縄先輩の腕をがっちりと掴んで引き戻した。
もしかしたら、陰湿な徳縄先輩とのやりとりを常日頃から先生たちが見ていて、私にキツく当たっているのを薄々勘付いていたのかもしれない。
翌日、絶食絶水で来院したヒナは隼人院長執刀医のもと、無事に手術を終えた。
気になっては時間の許す限り足繁く入院室に行き、ヒナの容態を看ること何回目だろう。
午後イチで看に行ったら徳縄先輩がヒナのケージの前に居る。
さっきもヒナのケージの前に居たよね、なにしているんだろう。
入らずドアの陰で様子を見ていたら酸素飽和度低下アラームが鳴った。
すると徳縄先輩がいち早くモニターに近寄り、なにより先にアラームを消した。
そのあと徳縄先輩はぼんやりヒナを眺めている。消したらダメだし、なにを呑気に見ているの?
慌てて入院室に駆け込んだ。
「さっきから、いったいなにをしていらっしゃるんですか? 何度も何度も酷いじゃないですか」
「何度も見ていたわけ? あんたって陰湿ね」
どっちが陰湿なのよ。
「あんたに濡れ衣を着せるために何度もやってんのよ。誰が見たってポンコツのあんたの失敗だと思うわよ。みんな、私を信じるわ」
私にだけ聞こえる小さな声は耳先に息がかかるほど不気味に近い。
「私なら一向に構いません。でも一生懸命手術をしてくださった隼人院長に危害を加えたら、私が許さないです」
それに、それに。
「なによりヒナが元気に退院すること。それが私たちの願いなんです!」
悔しさのあまり声が大きくなり、騒ぎを聞き付けたのか奥から隼人院長と俊介先生と朝輝先生が続々と出て来た。
「なにかヒナに問題でも?」
隼人院長が私の方を見る。
「酸素飽和度低下アラームを徳縄先輩が消したんです」
私が言い終わるかどうかで隼人院長が徳縄先輩に怒声を浴びせる。
「徳縄お前な、分かんねぇことや出来ねぇことは黙ってやんな! ひとりでやろうとせず、ちゃんと確認しろ。お前は痛くも痒くもないが患者の命がかかってんだ!!」
処置をする隼人院長の怒りは頂点に達しているよう。
「対応出来ないなら助けを呼べば良いし、アラームを消さないでほしい」
凄い剣幕の隼人院長のあとに口を開く温和な俊介先生でさえ、いつもと違って口調が強い。
「ヒナは苦しいんだ! 苦しみから解放してあげるのが僕ら医療従事者の役目だ。それなのに、あんたなにしてくれてんだよ!」
朝輝先生の激しい怒りが徳縄先輩をあんた呼ばわりする。
「違うんです、私の言い分も聞いてください。でたらめを信用するんですか?」
すかさず徳縄先輩が口を開く。
「阿加さんがアラームを消したので注意していました、もう三度ほど繰り返しています。出来なさすぎて怖いです」
なんて人なの、徳縄先輩の方が怖いよ。
「いいえ、徳縄先輩が何度も消していました。きっとヒナの術後管理が分からないんだと思います」
「人のせいにして酷い。それに私が術後管理が出来ないとでも思っているわけ?」
「出来るなら、なぜアラームを止めた? 術後管理が出来る人間がアラームを止める理由はただひとつ、故意的にしかない」
隼人院長の冷静な指摘は図星を指した。
その瞬間、部屋いっぱいに張り裂けるような殺気が満ちるのが肌で感じる。
みんな突っ込まず徳縄先輩に冷たい視線で静かな怒りを向けている。
私だったら耐えられない、死ぬほどつらい状況。
「出てけ!」と言う、隼人院長の怒鳴り声に弾かれるようにして徳縄先輩が入院室を飛び出しかけた。
すると、朝輝先生が失望と怒りをかき混ぜたような声で「バカヤロウ!! 本当に出て行くバカがいるか!」と怒鳴り、徳縄先輩の腕をがっちりと掴んで引き戻した。
もしかしたら、陰湿な徳縄先輩とのやりとりを常日頃から先生たちが見ていて、私にキツく当たっているのを薄々勘付いていたのかもしれない。