白虎の愛に溺れ死に。




…匡がこの家から居なくなる。そんなこと、微塵も考えたことなかった。


青海組は全国に傘下組織を抱える、比較的大きな組だ。


だから、今まで本家であるうちから別の傘下組織へ移動していく者も少なくなかった。


でも、心のどこかで、匡は私のお世話係だから、そういうことはないのだと思い込んでいた。


匡がここにやってきた16の頃から、みるみるうちに組織内での権力を上げ、舎弟の中ではトップの上納金を納めるようになっていたのは知っていた。


仕事で忙しいんだから私の世話係を外れたっておかしくなかったはずなのに、


奴はいつも「莉音さんの世話係をみんな狙ってますからね。奴らに場所とられねえように頑張ってるだけですよ」と笑っていたんだ。


だから、匡はいつまでも私の世話係でいてくれると思っていた。


組の者が結婚や足抜けしたという話を聞いたって、匡には関係のない話だって。匡の一番はいつだって私だって…。



「はあ、バカかよ。私。」



私にできることは電気もつけないで自室に篭ってふて寝することだけだった。


私は今年の春に大学を卒業して、青海組が経営に関わっているフロント企業に就職することが決まっている。


匡がいつこの家を出ていくのか定かではないが、恐らくそう時間はかからないだろう。


匡は組の勢力を拡大するために仕事でこの家を出るのだ。


私だって、こんなんでも一応組長の娘だ。私が嫌だと駄々をこねる場面ではないのは、十分分かっている。


分かっているけれど…心がついてこない。


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