白虎の愛に溺れ死に。
あまり遅くなると、それはそれでまたうるさい。
そろそろ家に帰るか、と空になったコーヒーカップについた口紅を指で拭って席を立った。
コーヒーショップを出るとすぐに二車線の道路があるのだが、通勤ラッシュにはまだ少し早い時間なので車通りはそこまで多くない。
この調子なら、電車もそんなに混んでないだろう。というか、混む前に帰った方がいいよね。電車とかあんまり乗り慣れないんだし。
小さい頃から基本的には家の車で登下校をしてきた私は公共交通機関に乗った経験が数えるほどしかない。
この歳だし、さすがに乗り方が分からない、ということはないけれど、まあ、一人で乗るのはそれなり緊張するわけで。
電源を入れ直したスマホで時刻表を確認しながら、ここから歩いて5分ほどの場所にある駅に向かおうと足を踏み出した。
…その時、
「…青海莉音さん、こんにちは〜」
「っ、…!」
いきなり背後から腕を掴まれ、体勢が後ろに倒れた。
驚いて大きく瞳を開きながら、振り返れば、そこには見知らぬ男3人。柄の悪い風貌は、明らかに堅気の人間ではなかった。
すぐに危機的な状態であることを把握して、ほとんど反射でキッと彼らを睨んだが、もちろんそんなこと程度で怯むわけもなく。
「ヒュー、さすがはお嬢。その気の強そうな目、そそるわー」
「噂には聞いてたけど、美人だなぁ。早くヤりてぇ〜」
なんて、私を嘲笑って下品な言葉をほざきやがる。