白虎の愛に溺れ死に。
「やだ…、離して!」
「俺ら馬鹿だけど、離してって言われて離すほどの馬鹿ではないんだわ。ダメじゃん、青海のお嬢が一人になるなんて。いつもの白虎さんはどうしたよ?」
私を羽交締めにしている男が後ろから顔を覗き込んで聞いてくる。
その瞬間、タバコの嫌な匂いが鼻をついて、吐きそうだった。
きもい、きもい、きもい…。本当、匡以外の男はみんなきもい!
ぐっと唇を噛んで奴らを睨みながら、バレないように肩掛けバッグに手を伸ばす。
そこには、もし何かあった時のお守りに、と匡がくれた護身用のスタンガンが入っている。
それさえ手に取れれば、今私を羽交締めにしている男をまずは一撃。腕の力が緩んだ隙に逃げ出して、近くの商業施設に逃げ込もう。
人目のあるところに行けば、こいつらだってさすがに手を出せないはずだ。
「なんなの?!あんたたち誰よ!」
「悪いけど、自己紹介してる暇ないんだわ。俺らが何者かは、後でじっくりあんたの父ちゃんにお話しに行くよ。」
「…っ、ちょ、やだ…!」
騒いで時間稼ぎをしているうちにようやくカバンの中のスタンガンに指がかかった。
しかし、それと同時に、路肩に停車してあった黒塗りのワゴン車に男3人掛かりで引きづり込まれ、頭が真っ白になる。
「…や、やぁぁあ!!」
「うっせえ、黙って乗れ!」
「っ、離せ!触んな…ぁ!」
カーテンに覆われた真っ暗な車内に恐怖心を煽られ、喚きながらも最後の希望であるスタンガンを一番近くにいた男に近づけたが…
「…っ、ぶね!」
「…おい!こいつスタンガン持ってやがるぞ!」
「このクソアマ…、うちの組、舐めてんじゃねえぞ!」
「…っ、きゃ、ぁ」
バシッと手を弾かれ、その拍子にスタンガンが車外に放り出された。
ガツっと音を立てて破片を飛ばしたその残骸を目に映して、私は一気に絶望の海に投げ飛ばされる。