白虎の愛に溺れ死に。
「騒ぎになる前にさっさと乗せろ!」
「組長の娘で、若頭候補の虎城匡の女だ。相当な条件で取引ができるぞ。」
「なあ…いい女だし、ちょっとくらい虐めたっていいよなあ?」
ああ、これは何に対する罰ゲームだろうか。
匡との約束をすっぽかしたこと?
いつもわがまま放題、組のみんなに迷惑かけていること?
それとも、匡の門出を笑って見送れない卑しい私に対する罰か、それとも匡から離れて地獄を見るべきだというお導きか…
喚こうにも、口を塞がれ声が出ない。暴れようにも、腕も足も雁字搦めにされて動けない。
万策尽きたとはこのことだ。
全ては自業自得。いつも自分中心で、周りに甘えてばかり。
それでいて、なんだかんだと一人でも大丈夫なのではないかと馬鹿な過信をした結果、こういうことになる。
馬鹿だ、馬鹿だ。自業自得だ。これは私への罰だ。
…それなのに、私って、どうしようもない。
本当に傲慢で、自分勝手で嫌なやつ。
だって、こんな場面でも、もう助かりようのないこんな場面でも信じちゃってる。
匡、…匡…、早く助けてよ…。
怖いじゃない、寂しいじゃない。なんで一人にしてるのよ、私を…
あんたお世話係でしょ?私の身の回りの世話も、私の護身も…あんたの仕事でしょ?
匡は私のヒーローだから。私はあいつ以上に格好良くて強い男を見たことないから。
だから…きっと来る。だって、あの青い瞳は…いつだって、どこだって、私の願いを叶えてくれるんでしょ…?!
口に当てられた男の手が少しだけ緩んだ拍子にガリッと歯を立てた。
「痛っ、…何しやがんだ、この女!」と男が拳を振り上げた瞬間、私は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、泣き叫んだ。
「きょぉ、…匡ぉぉお!…何してんだ!…早く助けに来い…馬鹿っ!」
最後の方は言葉にならなかった。喉が潰れて、涙に濡れて、ぐちゃぐちゃな汚いブッサイクな声。
でも、だけど…
綺麗な声より、よっぽど届いたんじゃないかな。
私の守り神、“氷の白虎”に。