白虎の愛に溺れ死に。
閉まりかけた黒いワゴンのドアに、骨張った指がかかる。
荒い呼吸音。自動で動こうとする車を無視してドアを抉じ開ける力強い腕。
暗い車内の中から見れば、後光を放っているようにも見えるその男は、その青い瞳に私を映した瞬間、
「てめぇら、…誰に断って人のモンに触ってやがんだ…」
「…こ、虎城…っ、」
見たことのない、般若のような顔で男たちを睨み、瞬きする間もなく、拳を振り上げていた男の鳩尾に肘を入れた。
ゴホっと咳き込みながら腹を押さえたそいつを見て、たじろぐ他の男も首の根本を掴んで車の端まで追いやると、
「…いい度胸だなぁ…、そんなに殺されてぇか。ああ?」
「っ、す、すみま…」
「それが最後の言葉か?それでいいんだな?」
「あ、…いや…あの、」
私の位置からでは匡の背中しか見えないけれど、男たちの顔面蒼白っぷりは今にも野生の虎に噛み殺されるところだと言わんばかりの迫力で…。
「莉音に手ぇ出した代償だ。心して受けろよ?」
「…っ、」
骨と骨がぶつかる鈍い音。
両手に掴んでいた男の頭同士を思い切りぶつけ合わせた直後、二人は脳しんとうを起こしたようにふらふらとシートに倒れ込み、意識を失った。
あっという間に男3人を戦闘不能にした匡は、顔も見ないまま私を抱え上げて外に出ると、男3人がぐったりと横たわる異様な車内に向かって再度威嚇するように睨みを効かせた。
「今日は殺さねぇから…よく聞けよ?」
「…っ、…」
「今後、莉音に触れていいのは、青海組若頭兼虎城会会長 虎城匡…俺だけだ。
次、この人に触れてみろ。触れた指から詰めてやるから、覚悟しな。」
声を荒げるでもなく、静かに低い声で言葉を放った匡。
それが妙に怖くって、その迫力は私までカタカタと震えてしまうほど。
すぐ後ろで控えていた数人の舎弟に「あとは任せるぞ」と言い残し、停車させていたセダン車に私を抱き抱えたまま乗り込んだ匡。
雑談などは挟まずに運転手に「出せ」と短く指示を出し、ゆっくりと車が動きだした。