白虎の愛に溺れ死に。
きっかけは別に大したことでもない。
夜の繁華街で青海組の構成員に絡まれた俺が、それを返り討ちにしたことを聞きつけた親父が中学を卒業したら組に入らないかとスカウトに来たのだ。
最初は胡散臭えし誰が入るか、と思ったが、これからの暴力団運営には知力も必要だから、と高校と大学の資金まで援助するとまで言われ、少しだけ心が揺らいだ。
高校には施設の金で行くことができるが、自由のない施設での暮らしに飽き飽きしていた俺は高校進学を諦め、施設を出て働こうと思っていた。
しかし、今の時代中卒にまともな仕事があるわけもなく、どうせクソな人生なら、このオッサンの話に乗っかって失敗したって一緒なんじゃねぇかって。
どうせダメならこの人生から降りればいい。
生きる意味も、死ぬ意味も見出せていないこの時の俺に怖いもんなんて何もなかった。
それに、質の良い黒いスーツに身を包み、明らかに一般人ではないオーラを放ちつつ、上品で端正な顔立ちに似合わずくしゃりと豪快に笑う親父を見ていたら、
この人なら信用しても良いんじゃないかって…そんな不思議な勘が働いたのだ。
無事に高校に合格し高校1年になると、俺は施設を出て青海組の本家に住み込むことになった。
そこで初めて、当時10歳の莉音と顔を合わせたのだが、
「莉音、今日からここに住む虎城匡だ。お前の世話係をすることになった。」
「……ふーん。」
「あんまり迷惑かけないように良い子にしろよ?」
「私いつも良い子でしょ?」
「あはは、面白い冗談だ。お前が我儘なせいで何人世話係が変わったことか…」
「男のくせに根性ないわよね。この世界の男って短気で本当に嫌になっちゃう。」
「おまえなぁ…?」
親父譲りのはっきりとした顔立ちで、子供ながら“美人”という表現が似合う美少女。
だが、可愛げなくポンポンと親父に言い返すその姿に抱いた第一印象は【生意気そうなガキ】だった。