白虎の愛に溺れ死に。
俺と莉音が出会って2年が経った頃、…莉音の母親が亡くなった。
雨音の響く葬儀場で、倒れるんじゃないかというほど嗚咽を漏らして泣きじゃくる莉音の頭を撫でながら、俺はすごく不思議で。
同じ母親と子供でも、こんなに違うのか…と。
今どこで何をしているかも知らない自分の母親が死んだと知らされても俺はきっと涙のひとつも出ないと思う。
なんなら、ざまあみろ、なんて…非情な言葉を頭に浮かべるかもしれない。
それなのに莉音は、いつもの生意気さが嘘のようにこの世の終わりだとでも言うように声を上げて泣き続けるから……、
そのこと自体が…彼女が正しく、母親から愛されて生きてきた証明だった。
自分が小学生の頃。親に愛されてのほほんと生きている同級生にとにかく苛立っていた。
どうして子は親を選べないのか。どうして俺はあんなゴミクズな親から生まれてきてしまったのか…。
答えのない怒りを頭の中で繰り返しては、無意識に親のことを思い出す自分に辟易していた。
しかし、立場が変われば考えも変わるもんで…、
あの頃、親から愛される同級生にあれほど苛立っていたというのに、俺の腕の中で泣く莉音に対してそういう感情は1ミリも浮かんでこなくて。
俺には存在しない、親から受けた愛情の記憶。
彼女はその記憶を反芻しながら、突然訪れた別れに心を痛めている。
…それならば、その記憶をいつまでも忘れずに持ち続けて欲しい、と心から願った。
俺には与えられた愛情なんてものはなく、ドブに捨てたい記憶しかない。
しかし、彼女は俺とは違う。沢山注がれた愛情と宝物のような暖かい記憶で溢れているから、ここまで無垢で、純粋に欲をさらけ出せるのだ。