磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
先に走り出したのにあっという間に悠馬に追い付かれる。スポーツ経験もないし、もう何年も走ってなどいない為すぐに苦しくなってしまい、立ち止まって膝に手をつき、荒い息の間に『はぁはぁ、先行って。』と言葉を挟む。そんな真海の視界に悠馬の広い背中が現れた。

「乗れ!」

彼は両手を後ろに差し出している。

「は!?」

「おぶって走るから早く乗れ!」

「いやいやいや何言ってんの!?」

悠馬は『早く!』と真海の手を掴む。

「無理だよ!重いし恥ずかし過ぎるから!」

「だって間に合わねえだろ!?俺お前のこと抱き抱えたことあるし!」

「いやでもあの時は緊急事態だったし・・・。」

「今だって急いでんだろ!公園の出口までだったら会社のやつに見らんねえよ!」

「会社の人じゃなくても見られるの恥ずかしいから!」

「んなこと言ってる場合じゃねえだろ!恥を捨てろ!」

真海は腕時計を見ながら会社までの距離やエレベーターを呼んで待ち会社のフロアまで昇り、ミーティングの支度をして会議室まで行く時間を計算してみる。背に腹はかえられない状況だ。

「あーもう、わかったよ!」

観念してそろそろと悠馬の肩に手を掛けた。すると彼は彼女の尻の下にグッと腕をあてがってガッと立ち上がる。

「行くぞ!しっかり掴まってろよ!」

真海は恥ずかしさで悠馬の背中から体を浮かせていたが悠馬に『そんなに離れてると落ちまうぞ!走りにくいし!』と言われ思いきって体を彼の背中に密着させた。

悠馬は自分でそう言ったものの彼女の体の柔らかい部分が背中にあたり気が動転してしまう。しかしそれが蒸気機関車に石炭を追加したかのように彼の足を更に早く動かすことになり二人は無事ミーティング前にオフィスに滑り込むことができたのだった。
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