磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
*想定外なイブ*
季節は巡って定時を30分過ぎた冬のオフィス。真海(まなみ)はモヤモヤしていた。今日は付き合ってから初めてのクリスマスイブ。悠馬(ゆうま)とデートの約束をしているのに外出中の彼がまだ帰社しないのだ。

10月から新しいプロジェクトが立ち上がり、専門知識及び技術を持つ派遣社員の女性が3ヶ月の契約でやってきた。真海と悠馬の間にデスクを入れ座ることになった日野翼(ひのつばさ)は真海より7歳年下の27歳で以前悠馬が好みだと言っていた部活のマネージャーそのものの爽やかな外見と素直な性格で誰からも好感を持たれるような女性だった。

付き合って数ヶ月経っても真海も悠馬もイマイチ素直になりきれないところがあり喧嘩してばかりで実際昨夜も些細なことで喧嘩をし険悪な状態だった。

一方日野は真海が照れてしまって言えない褒め言葉もサラッと言えたし、そんな彼女の言葉に悠馬は嬉しそうに表情を崩すのだった。スポーツの話題で盛り上がったり食事の好みも同じでどう見ても二人はお似合いだったし、やはり彼の好みはこういう女性なのだと思い自信を失った。

以前猫カフェに行った時には、将来は猫がたくさんいる家で真海と一緒に暮らしたいというようなことを示唆していた悠馬だが、こんなに喧嘩ばかりでは自分との未来を考えることはなくなったのではないかと思ってしまう。

真海と悠馬が付き合っていることは日野には伝えていなかったけれど、彼女には長く付き合っている彼氏がいるらしいし年末のプロジェクト終了と共に契約も終了する。二人を見てやきもきするのはそれまでの間だと思っていた。

そんな二人が車で郊外の工場に出かけ戻ってこない。帰社予定は定時の一時間半前とホワイトボードに記されていた。
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