甘い恋をおしえて


接客係の女性にコーヒーを運んでもらい、莉帆は奥に控えたままだ。
厨房では梓や和菓子職人たちが息を潜めている。

みな、客が佑貴だと気がついているのだ。

「莉帆」
「今はなにも言わないで」

三十分くらい経っただろうか。佑貴たちが席を立つ気配がした。
会計のために梓が店に出ようとしたが、莉帆が目で合図して止めた。
和菓子を並べたショーケースの横が会計だ。莉帆が店に立つ。

「カードで」

佑貴がカードをすっと莉帆に渡す。

「ありがとうございます」

会計を始めたら、女性が莉帆に和菓子がほしいと言いだした。

「さっきのお菓子、ほしいです。どこで買えますか?」
「こちらでも販売しております。こちらでよろしでしょうか?」

莉帆は綺麗に菓子を並べた小箱を見せた。
リンゴの風味の時雨羹がほしいと言いながらも、ショーケースの中の主菓子やお饅頭を見た女性は迷っているようだ。

「キャス、菓子は日にちが持たないからやめておけ」
「だって、食べたいんだもん」

キャスと呼ばれた女性は諦められないようだ。

「それでは、こちらのお菓子はいかがでしょうか」

小さな箱入りのものを見せる。

「わお! キレイだわ!」

莉帆の勧めた、色も形も凝った和三盆を使った干菓子にキャスは感動している。
季節の花や扇などの和風の型が気に入ったらしい。

「これを五つください!」
「会計は一緒に」

佑貴が全部支払うようだ。

「かしこまりました」

ふたりの間に微妙な空気が流れているが、キャスという女性はまったく気がついていない。
店の様子を写真に撮ったり、和菓子のパンフレットを見るのに夢中のようだ。
他人行儀な会話が続くなか、結局佑貴は店を出るまでキャスと呼ぶ女性に莉帆を妻だとは紹介しなかった。

「またのお越しをお待ちいたしております」

莉帆は店を出ていくふたりに向かって、深々と頭を下げた。
キャスはニコニコと笑顔で手を振ってくれたが、佑貴は振り返りもしなかった。



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