【SR】松嶋家の『殺意』


「ただいま。さっきはゴメ…ン?」


誰も居ない。


「父さん?母さん?…暁?」


各部屋、洗面所、トイレとくまなく
捜したが、誰一人居なかった。


今度こそ茂男を捜しに?いや…
一瞬、よからぬ思いが頭を過ぎっ
たが、それもすぐに打ち消した。
悪い方向へ考えたって仕方ない。


でも、こんな時間三人揃って何処
へ行ったというのか。


不安になった茂男の心臓を、電話
のベルが揺さぶった。


「もしもし?」


『…しもし……』


くぐもっていてよく聞こえなかっ
たが、それでもわからない訳がな
い。
自分の父親の声は。


何処に居てるの?
よく聞こえないよ。
変な声でしゃべるからだよ、父さ
ん。


言葉にする前に、行く手を遮られ
た。


『お前の父親を預かった。
返して欲しければ、母親に言って
8万5千円用意させろ。
詳細は追って連絡する。』


茂男がものを言う隙すら与えず、
電話は切れた。


「……何……考えてんだよ!」


明らかな自作自演。
具体的な金額は恐らく、引き出し
ても困らないギリギリの額なんだろ
う。


呆れるより先に、自然と笑みが零
れる。


「なんてこったい!傑作だ♪」


俺を心配する所か、ここぞとばか
りに小遣い稼ぎか!


茂男は、腹を抱えて笑い出した。
頬を伝う冷たい感触にも気付かず
に……
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