天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
啓介さんがお代わりの紅茶を持ってきてくれ、ふたりで映画を一本観た。
ぴったりと横に並び、彼と手を繋ぎながら映画を観るなんて初めて。
慣れないことに胸がドキドキして手に汗をかきそう。
映画の内容もなかなか頭に入ってこない。
けれど啓介さんの手は温かくて安心感があった。時折指先で手の甲を撫でられるとドキンとしてしまうが決して嫌なわけではない。
反対にこの手を離しがたくなりそうな自分が怖い。
ひとりで生きてきたのに、この温かさを知ってしまったら元には戻れなくなりそう。
繋がれた手を見つめ考えていると啓介さんが顔を覗き込んできた。
大丈夫? と言いたげな表情に私は無言で頷いた。
また2人で前を向き、映画の続きを見た。

「意外と面白かったな」

「そうですね」

私が相槌を打つと彼はニヤッと笑っていた。

「茉莉花は繋がれた手が気になって集中できなかったんじゃないか?」

「あ、えっと……ちょっとだけ」

「これが自然で、すぐに日常になるよ」

そう言われると顔が火照ってくる。
手を繋ぐのが特別でなく、日常になる日が来るってドキドキする。
ううん、ドキドキもしなくなるのかな。
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