天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
ソファに座り、考え込んでいると肩を叩かれた。
顔を上げると啓介さんだった。

「お待たせ。ごめんな、取りに来させて」

「あ、ううん。大丈夫。それより忙しいのにチケットありがとう」

「茉莉花、なんだか変だぞ? どうした?」

私の様子に気がつき、顔を覗き込むようにしてきて、慌てて私は立ち上がった。チケットを受け取ると早口で、

「仕事場に来てごめんなさい。まだこの後も仕事だよね? がんばってね」

それだけ言うと走るようにエントランスを出た。最後に彼がどんな顔をしていたのか見る余裕さえなかった。
小走りで駅の方へ向かうと仕事帰りの人ごみの中に紛れた。そこでやっと私は息をついた。
私はこの流れる人たちと同じ。人混みに紛れてしまえば見つけてもらうことも出来ないような普通の人間。
けれど啓介さんは違う。
彼の見た目はもちろんだが、人として懐の大きさや優しさ、人間性そのものが多くの人の目を引く。その上秘書としての仕事も優秀ときたら完璧としか言いようがない。
先ほどの受付の女性たちに言われた事は何ひとつ間違いがない。
私と付き合ったのは佐倉さんの子供だからなのか。
自分自身に魅力があるなんて思えない。
何もかも信じられなくなってしまった。
< 126 / 167 >

この作品をシェア

pagetop