天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
駅に着き、電車に乗るとアパートの方ではなく思い出の場所へと自然と足が向いていた。

電車を乗り継ぎ着いた所は小さな頃から住んでいたアパートだった。
私はここで生まれ育ち、母が亡くなるまでの全ての時間をここで過ごした。
近くにある商店街や公園、学校など思い出がたくさん詰まった場所だ。
行くあてもないまま私はふらふらと歩き回った。
ここにいた頃はお金もないし、綺麗な服も新しいものもなかなか買ってもらえなかったけど私を大切に思ってくれていた母がいた。
絶対的な味方で、決して裏切ることのない存在だった。その安心感は何ものにも代え難いものだったと、失ってから気がついた。
唯一無二の存在だと思ってくれていた母がいなくなった今、私は誰からも見つけてもらえないような普通の人間で、誰かにとっての特別にはなれないんだとあらためて感じた。
啓介さんを信じたいけれど、信じられるだけの私自身の自信はひと欠片もない。
こんな人間を好きになってくれる人なんていないのではないか。
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