天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
週末は知ってしまった事実に動揺して色々と手につかなかったが仕事に行くと気持ちが切り替わる。

「茉莉花ちゃん、ひじきの煮物お願いね。そのあと唐揚げ始められる?」

「はーい」

厨房は11時半に向けて今日も大忙し。あと1時間ちょっとしかない。4人で所狭しと動き回る。
出来上がり始めたものを幸子さんが詰め始めていた。
まるで戦場のような光景はいつもの日常で色々な事を考える暇を与えない。それはとてもありがたい。

「ふみさん、ご飯炊き上がりましたー」

「はいはーい」

煮物や焼き物もどんどんと仕上がっていく。
私も詰めるのを手伝い、ようやく店頭に並べ始めると常連さんたちが来始めた。
今度は会計をするため店頭に立ち、3人は弁当の補充をするために作り続けている。

「安治郎さーん、お魚の方がもう少ないです」

私が声をかけると中から「あいよー」と返事が聞こえてくる。

ようやく店先にできた列がはけた頃、「こんにちは」と声をかけられた。
聞き覚えのある声に顔を上げると竹之内さんだった。

「林田さん、今日は何がおすすめ? さすが看板娘ですね、元気が良くて見ててきもちがいい」

褒められ慣れていない私は反応に困ってしまう。俯き気味に「和風の豆腐ハンバーグ弁当と鶏めし弁当がおすすめです」と伝えると、両方くださいと言われた。

袋に詰めて渡すと笑って手を振り帰って行った。
今日もきちんとした身なりで竹之内さんには隙がないなと思った。いつ見てもアイロンのかかったワイシャツにシワの伸びたパンツ、毎回違うネクタイがからを引き立てている。奥さんが選んでいるのかな?とふと考えてしまったが、私の考える事じゃなかったと慌てて頭の中から消した。
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