お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 階下の酒場で強い蒸留酒を飲んでいるカルヴァドスの周りは、いつものごとく、女性で賑わっていた。
 酒場の女性たちはカルヴァドスがアイリーンを部屋に連れて行っていることを知らないので、せっせと自分たちの売り込みをしたが、結局、誰も成功には至らなかった。
「いやぁ、アニキ、やっぱりモテモテですよね。どこの港に行ってもアニキの周りには、花が競い合って咲いてるって感じですよね」
 若い船員は言うと、羨ましそうにカルヴァドスの事を見つめた。
 そこへ、ジョッキを片手にした船長が歩み寄ってきた。
「カルヴァドス、本気であの娘を連れて行く気か?」
 船長の問いに、カルヴァドスは笑顔で『もちろん』と答えた。
「お前は、あんな子供じゃなく、グラマーな女が好みだったんじゃないのか?」
 船長は不思議そうに尋ねた。
「船長、遊びなら、グラマーな方が良いのはあたりまえ。でも、本気になるなら、俺は、ああいうタイプだよ」
 カルヴァドスの答えに、船長が目を瞬いた。
「おい、あの娘は恋人を追いかけてタリアレーナに行くんだろうが」
「知ってるさ。でも、他人のものだからって口説いちゃいけないという法律はどこの国にもない。つまり、俺にもチャンスはたっぷりあるってことさ。タリアレーナまでは結構距離があるからな。ゆっくりと時間をかけて、俺に惚れさせればいいのさ」
 自信たっぷりのカルヴァドスに、船長は悪酔いしそうな気がしてジョッキを置いた。
「船の中では面倒を起こすなよ」
「わかってますよ」
 船長は一言釘を刺すと、すぐに二階へと上がっていった。
 それを見つけた安っぽい派手なドレスに身を包んだ女性が、慌てて追いかけて階段を上って行った。
「お前は、これでなんか好きなものでも飲んで来い」
 カルヴァドスは側にくっついている若いクルーに言うと、銀貨を二枚手渡した。
「えっ、良いんですか? 本当なら、俺らがカルヴァドスさんに御馳走しなくちゃいけないのに・・・・・・」
「いいから行け」
 蹴とばすようにして若いクルーを追いやると、すぐに強面の船乗りがカルヴァドスのそばに歩み寄った。
「調べ物を頼みたい」
「何でございましょうか?」
 強面の船乗りは、恭しくお辞儀をしながら問い返した。
「王女の侍女の名前を調べてくれるか?」
「かしこまりました。明日の朝までにはお調べいたします」
 強面の船乗りは、外見からは想像もつかない丁寧な口調で言うと、すぐにカルヴァドスのそばを離れていった。
 カルヴァドスは店の奥の時計を見つめ、そろそろ夕飯の時間だなと思うと、グラスを置いた。
 チップを渡し、赤ワインを一本部屋まで届けてくれるように頼むと、階段を上がって部屋へと向かった。

☆☆☆

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