お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 主のいない部屋でご機嫌斜めのアイゼンハイムと少々拗ね気味のラフカディオの世話をしていたローズマリーは、窓をノックする音に慌てて振り返った。
「アルフ!」
 ローズマリーが鍵を開けてアルフレッドを招き入れると、アイゼンハイムがギロリとアルフレッドを睨んだ。
「どうしたの? 何かあって?」
 来る予定の無かったアルフレッドの登場に、ローズマリーは不安そうな顔でアルフレッドを見つめた。
「それが、おかしいんだ」
「おかしいって?」
「アイリにパブの名前を教えておいただろう? 本当なら、『グリーンズゲート』で、俺の知り合いの船長に会って、やっぱりアイリが独りで行くのは無理だって、悟って帰ってくる手筈だったのに、あまりに遅いから、『グリーンズゲート』に言ってみたら、アイリは来てないって言われたんだ。でも、その手前にある『レッド・ライオン』迄は来たってバーテンダーが言っていた」
「アルフ、まさか、姫様が諦めるように仕組んでいたの?」
 ローズマリーは、驚いてアルフレッドの事を見つめた。
「当たり前だ。あの箱入りのアイリを独りで貨物船でなんて、行かせられるわけないだろう! だから、俺が代わりにウィリアムを探しに行こうと、そう思っていたんだ。なのに、アイリはまだ戻ってないんだ。どこに行ったんだ?」
 アルフレッドは言うと頭を抱えた。
「もしかして、姫様はその事に気付いてアルフの教えたパブに行かなかったのでは?」
「いや、それは無いだろう。他の店はパレマキリア船籍の貨物船が多くて、どこで身分がばれるかわからない危険な賭だし。アイリの性格なら、大人しく、教えられた店に少なくとも行くはずだ。諦めるかは別にして。でも、来てないって言うんだ・・・・・・」
「じゃあ、他のパブに行ったという事は?」
 ローズマリーの言葉に、アルフレッドは呻き声を漏らした。
「ああ、やっぱり、見張っておくべきだった。独りでなんて、行かせるんじゃなかった・・・・・・。アイリにもしもの事があったら、俺は、ウィリアムに合わせる顔がない・・・・・・」
 アルフレッドは頭を抱えながら窓際のカウチに腰を下ろした。
「仕方がないわ。姫様が決めたことですもの」
 ローズマリーは言うと、アルフレッドの隣に腰を下ろした。
「本当なら、私が代わるべきだったのよ。私なら、客船にも乗れるし、姫様がパレマキリアに嫁ぐことが決まってお暇を戴いたと言えば、皆納得したはず。それなのに、私は、アルフ、あなたと離れるのが嫌で、最後まで言い出せなかったの。ごめんなさい」
 涙をこぼして謝るローズマリーをアルフレッドは優しく抱きしめた。
「マリー、君のせいじゃない。女の独り旅なんて、どっちにしても危険すぎる。やっぱり、俺が行くべきだったんだ。俺なら、独りでどこにだって行かれたのに」
 後悔後に立たずとは、まさにことことだった。
 アイリーンに最大限協力するフリをして、パブ『グリーンズゲート』にいる仕込みの船長にこっぴどく断って貰えば、少なくともアイリーンは計画が思ったように進まないことを自分には連絡してくるだろうと、そうしたら、なだめすかして神殿に戻し、自分がタリアレーナにウィリアムを探しに行こうと決め、既に荷造りもしてあったアルフレッドだったが、肝心のアイリーンは予定の場所に姿を現さず、そのまま夜のじょうかまちに姿を消してしまったのだ。
「とにかく、どっかに宿を取ったと思うから、町の見回りがてら捜してみる」
 どう考えても、アイリーンが町で野宿するとは思えなかったので、アルフレッドは言うと、ローズマリーの額にキスを落として部屋から出ていった。
 残されたローズマリーは、アイリーンがタリアレーナに行くと言い出したとき、もっとアルフレッドなら反対すると思っていたのに、やけにあっさりとアイリーンの無謀な行動を認めたと思ったら、途中にトラップを仕掛け、アイリーンが諦めて自分に泣きついてくるように仕組んでいたとはと、思いもしなかったことなので、驚いたような、呆れたような、でも、そこまで深くアルフレッドだったがはアイリーンはの事をよく理解しているのだと思うと、やはり、フタリガケッコンスルノガ一番の幸せで、自分の存在が二人を邪魔してしまったのではと、胸が苦しく、心が痛かった。
 その夜は、アイリーンの代わりにアイゼンハイムとラフカディオの世話をして、寂しがる二匹の側を離れがたくなったローズマリーは、アイリーンのベッドの上に二匹を呼び、二匹の頭を撫でながら夜が開けるまで窓の外を見つめ続けた。

☆☆☆

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