お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
『アイリーン王女の侍女はジュリアーノ男爵令嬢のローズマリー・ローラ・エンゲルバート嬢。髪の毛はは、赤みがかったプラチナブロンド。
 王女の愛犬の名前はアイゼンハイム、略してアイジー。イエロス・トポスから贈られた白銀の狼の名はラフカディオ、略してラフディーでございます』

(・・・・・・・・間違いない。アイリスと名乗っているが、この美しいストロベリーブロンドの髪といい、間違いない。彼女はアイリーン王女。俺に名前を聞かれて、とっさに自分の侍女の名前を合わせたんだ。さっき、寝言で呼んでいたアイジーと言うのは、愛犬の名前だ。間違いない。だとしたら、なんで姫はタリアレーナに? もしかして、本当にタリアレーナに恋人が居るのか? でも、パレマキリアの奴らは、間もなくダリウス王子と姫は婚約すると、宴会状態だったし、姫自身も、パレマキリアのダリウス王子に嫁ぐことが決まっていると言っていた。もし、ここで姫が消えたら、こんな小さな国、一気にパレマキリアの餌食にされるのが落ちだぞ・・・・・・・・)

 カルヴァドスが考えていると、ドンドンと激しく扉がノックされた。
「はい!」
 慌てて扉を開けると、宿の女将が大きなトレイに載った食事をカルヴァドスに差し出した。
 丸い白パンに魚介類のホワイトシチュー、それに頼んでおいた赤ワインが一本、グラスと一緒にトレイに載せられていた。
「ワインは、後からお届けに参りますからね。おや、恋人さんはわ、もうお休みですか?」
 女将が好奇心旺盛なのは玉に瑕だが、この宿の食事はおいしいので、カルヴァドスは気に入っていた。
「ありがとよ、女将!」
 トレイを受け取り、部屋のテーブルに置くと、カルヴァドスは少し多めにチップを手渡した。
「いいえ。カルヴァドスさんは特別ですよ」
 笑顔で言うあたり、商売っけたっぷりな女将だ。今更『特別ですよ』と言われても、いつもの商売トークなので、悪い気も良い気もしない。
「悪いな、よろしく頼む」
 カルヴァドスは女将を見送ると、ワザとドスンとベッドに座った。
 安くて堅いスプリングが海の波のようにベッドを激しく揺らした。
「えっ、あっ、おちる?」
 弾んで落ちそうになったアイリーンが目を開けて叫ぶのをカルヴァドスが抱き留めた。
「よく寝られたかい、レディ?」
 突然のことに、アイリーンは何が起こっているのか分からず、目を瞬きながら辺りを見回した。
「えっと、あれ? ここは」
「レディ、ここは今晩の宿。夕食が来たから一緒に食べないか?」
 カルヴァドスに言われ、アイリーンはやっと自分が船に乗せて貰う約束をして、カルヴァドスと一緒に宿に泊まることになったのを思い出した。
「あっ、はい。戴きます」
 アイリーンは答えたが、カルヴァドスはしっかりとアイリーンを抱きしめたままだった。
「あの、このままではテーブルまでいかれないですが」
 アイリーンは顔を赤くして言った。
「なあ、レディ。食事をしながら、レディがそこまで追いかけたい恋人のこと、もう少し教えてくれないか?」
 抱きしめられ、カルヴァドスの体温を近くに感じると、アイリーンは鼓動が早くなるのを感じた。
「はい。かまいません」
 アイリーンが同意すると、カルヴァドスは渋々手を離してアイリーンを自由にしてくれた。
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