お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 二人でベッドに座り、小さなテーブルを挟んで隣り合って座ると、カルヴァドスがアイリーンにパンとシチューを勧めてくれた。
 再びノックがあり、カルヴァドスが頼んでいた赤ワインとグラスが届けられた。
「レディ、お酒は飲めるんだよな?」
「はい。デロスの貴族は十五でお酒を飲むのを許されてますから。もちろん、パーティーや正式なディナーの時に限られますが」
「で、レディは? って、失礼だな。レディに歳を訊くのは・・・・・・」
「私は、もう成人しました」
 デロスの成人は、男女共に十八歳だ。
「じゃあ、お姫様とほとんど同じ歳って事か?」
「はい、そうです」
 アイリーンは、後からボロが出ないよう、極力嘘をつかなくて良いところは本当のことを答えるようにしていた。
「カルヴァドスさんは、お姫様のことをよくご存知なんですね」
 アイリーンの問いに、カルヴァドスは少し照れながら赤ワインをグラスに注いでアイリーンにて渡した。
「ん、ああ。式典を見てからな、ファンなんだ」
「式典? ああ、海の女神の祭礼ですね」
「乾杯」
 カルヴァドスがグラスを持ち上げた。
「何に乾杯を?」
「二人の出逢いに」
「じゃあ、私は、船に乗せていただける幸運に乾杯します」
 二人のグラスが一瞬触れあい、そして離れていった。
「美味しい赤ワインですね」
「これは帝国産のだ」
「せっかくのお夕食が冷えてしまいますね。戴きます」
 アイリーンは笑顔で言うと、木の器を持ち上げ、木のスプーンですくってシチューを口に運んだ。
「美味しい!」
 それから、白パンを一口サイズに千切って口に入れた。
 どれも、城で口にするものに比べれば、かなり質の劣る物ばかりだったが、今日一日の苦労のせいか、そまつなメニューも美味しく感じられた。
「出航は、明日の朝ですか?」
「ああ。実際に港を出るのは午後だろうが、俺は朝一で船に戻る。レディは、後から来ても良いが・・・・・・」
「いいえ、ご一緒します」
「本当に良いのか?」
「えっ? どう言うことですか?」
「レディは、貴族のお嬢さんだろ。結婚が嫌だからって家出なんかしたら、大事にならないか? それに、二年もタリアレーナに行きっぱなしの男が、今もレディの事を想っているって言うのも、怪しく感じる。もう、他に好きな女が出来ているかも知れないとか、考えないのか?」
 カルヴァドスの言葉に、アイリーンは白パンを手に俯いた。
「実は、もう二月音信不通なんです」
「はぁ? それって、もう心変わりしたって事じゃないのか?」
 カルヴァドスは驚いて声を上げた。
「ただ、元気でいるのを確認したいんです」
 アイリーンは思っていることをそのまま口にした。
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