お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「でも、もし、他の女と暮らしていたりしたらどうするんだ?」
 あり得ることなので、カルヴァドスはアイリーンの覚悟を試すように尋ねた。
「それなら、それでいいです。ただ、元気でいるのがわかれば・・・・・・」
「レディはどうするんだ?」
「そうしたら、大人しく国に戻って、婚約者と結婚します」
「レディ・・・・・・」
「手紙が来なくなって、心配で心配で、何もてにつかないくらい心配だったんです。でも、元気なら、それで良いんです。幸せなら、それで・・・・・・」
 兄のウィリアムが元気なら、ちゃんと約束の時には国に帰ってきてくれると信じられるから、そうしたら、自分は大人しく約束通り、ダリウス王子に嫁げばいい。そうすれば、兄のウィリアムが留学するときに約束したように、不在の間は自分が代わりに国を護るという約束を果たすことが出来るから。でも、今のアイリーンの一番の心配は、兄のウィリアムが見つからないことだった。
「そんなの家主とかに聞けば、すぐわかるんじゃないのか?」
 カルヴァドスは当然の事を言った。
「それが、部屋を引き払ってしまったらしく、引っ越し先が分からないんです」
「はあ? じゃあ、タリアレーナに行ってからどうやって探すつもりなんだ?」
 余りのことに、カルヴァドスは目を丸くした。
「姫様に、紹介状を書いていただいたので、シュナイダー侯爵邸で、侍女として働きながら、彼を探すつもりです」
「レディ、そんなにイイ男なのか? レディがそんな、自分の人生を犠牲にするようなことをしてまで、もう一度逢いたいと思うほど、その男はイイ男なのか?」
 カルヴァドスの言葉に、アイリーンの脳裏に優しかった兄の姿が蘇った。
 誰よりも優しく、誰よりもアイリーンのことを大切にしてくれたウィリアム。こよなく音楽を愛し、ウィリアムの弾くヴァイオリンの音色は素晴らしく美しく、優しかった。
 母の顔を朧気にしか憶えていないアイリーンに、母のことを沢山話して聞かせてくれたウィリアム。だからアイリーンは、今も母のことを色々と想い出すことができた。
 ウィリアムの顔、亡き母の顔、病の床にある父王の顔を思い出したアイリーンの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
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