お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
(・・・・・・・・もしかして、もう、アイリは自力でこの船に乗る手はずをつけているのかも知れない。もしかしたら、この男と・・・・・・・・)
「どうかしましたか?」
「いいえ。そう言えば、宿には、お一人で?」
「ええ。ここには馴染みの女の子が何人か居るんでね。ただ、安酒場の女とは違って身持ちの堅い子ばっかりで、なかなか誘いには乗ってくれませんけど」
カルヴァドスは部屋にアイリーンが言ることなど、おくびにも出さなかった。
「そうですか。貴重なお時間をすいません。明日、出航したら、当分陸には上がれないんですよね。すいません」
「いや、今日は賽の目もよくなかったし、カードもカスばっかりで、独りで寝るかと思っていたところだったんで構いませんよ。一つ、訊いても良いですか?」
「自分に答えられることなら・・・・・・」
「お姫さんのこと、なんて呼んでたんですか?」
想定していなかった質問に、アルフレッドはボトルを落としそうになった。
「えっ?」
「いや、どうも愛称の呼び方のセンスが悪いって言われるんで、隊長さんのセンスを教えて貰おうと思って。お姫さんは、確かアイリーン様だっけ?」
カルヴァドスの言葉にアルフレッドは頷いた。
「俺は、アイリと呼んでた。小さい頃からだから、婚約者としての呼び方じゃない。どっちにしろ、破談になった男からセンス学んでもダメじゃないか?」
アルフレッドが自虐的な笑みを浮かべた。
「ああ、そうか。そう言われちゃそうだな。ビールご馳走さん」
カルヴァドスが言いながら手を出すので、反射的にアルフレッドは握手した。
「良い航海を・・・・・・」
「ああ、ありがとう。ボトル、返しておくよ」
「ありがとうございます」
アルフレッドはお礼を言うと、空になったボトルを手渡した。
「そうだ、もし、タリアレーナで探してるお嬢さんを見かけたら、なんか伝言、あるかい?」
カルヴァドスの言葉に、アルフレッドはしばらく考えたが、頭を横に振った。
「いえ。自分で言わないと意味のない事なので。ただ、無事でいて欲しいと祈り続けます」
「そうだな。愛の言葉を他の男から聞いても、嬉しくないか・・・・・・」
カルヴァドスは笑いながら頭を掻いた。
「あなたのその髪は、地毛ですか?」
「いや。俺のは、元々は隊長さんと同じ黒髪だ。父親譲りの黒髪が嫌いでね。脱色してへなで染めてるんだ」
「そうなんですか。あの、御名前を伺っても?」
「ああ、俺の名は、カルヴァドス・カスケイドス。親が付けてくれた名前は、家を飛び出して髪をこの色に染めたときに捨てちまった」
「俺は、アルフレッド・・・・・・って、ご存知でしたね」
「隊長さんもお元気で・・・・・・。とっとと、パレマキリアの連中が引き上げると良いな・・・・・・」
カルヴァドスの心からの言葉だったが、アルフレッドには、それがアイリーンがダリウス王子に嫁ぐ時だとわかっているから、すなおには喜べなかった。
「そういや、パレマキリアの奴ら、何を港をウロウロしてやがるのか、隊長さん知ってるかい?」
「ああ、それは、アイリを・・・・・・。いや、姫が神殿を抜け出して、六ヶ国同盟の加盟国に逃げ出さないように見張ってるんです」
「はあ? なんで? 連中に関係ないだろ! まあ、助けを呼ばれたら困るってのはあるんだろうが・・・・・・」
「違いますよ」
言ってしまってから、アルフレッドは少し後悔した。