お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「アニキ、お帰りなさい! 荷物って、いつも自分で運ぶのに、どうしたんですか?」
 若いクルーは問いかけると、カルヴァドスの荷物を手に取った。
「レディの荷物も頼む」
「えっ?」
 クルーは驚きの声を上げたが、カルヴァドスは一気にアイリーンを抱き上げ、傾斜のキツい階段を駆け上がった。
「あ、アニキ、船長はご存知なんですよね?」
 動揺するクルーに、カルヴァドスは『当たり前だろ』と言うと、『ついでに部屋まで運んでおけ』と、クルーを船室の方に蹴りやった。
「レディ、怖くないか?」
 問われたアイリーンは、コクリと頷いた。
「いま、下ろすから」
 カルヴァドスは、貴重品を取り扱うように、丁寧にアイリーンを下ろした。
 海に浮かんでいるので、船に乗ったことのないアイリーンは、かすかな揺れにもバランスがとれず体がふらついた。
「たぶん、一週間は船酔いで苦しいと思うが、飲んだくれだが医者も乗ってる。だから、レディは心配しないで俺の事だけを見てればいい。俺達は、レディの目的地に着くまでは、恋人同士だからな」
 「はい」と返事をしようとしたのに、船が少し揺れたため、アイリーンはバランスを崩してカルヴァドスの胸に飛び込んでしまった。
「おっと、積極的だな」
 水平線から半分ほど顔を出してきた太陽の光に照らされ、カルヴァドスは衝動を抑えられず、アイリーンのスカーフをほどいた。
 太陽の光に照らされ、ストロベリーブロンドの髪が神々しく輝いた。
 それは、カルヴァドスが長年恋い焦がれて来た、式典の時に遠目でしか見ることの出来なかった、姫巫女の姿だった。
「綺麗だ、とっても・・・・・・」
 口説かなくても女性がほっておかないカルヴァドスだから、心から女性に世辞を言ったことなど、生まれてこの方一度も無かった。
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