お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「ここが、一等航海士の部屋。この真後ろというか、隣というか、反対側にあるのが、ドクターの部屋。船長とドクター、俺達以外の船室は甲板の下にある。ただ、部屋はサロンを入れて四つだけだが、全ての帆の上にクルーが居るし、結構大勢が行き来するから、窓のカーテンは開けとくと覗かれるから注意してくれ」
 部屋は独りで過ごすのには十分な広さだったが、アイリーンが間借りするとなると、部屋の奥にあるベッドに二人で休むのは、ある意味必然だとアイリーンは感じた。
 理由は、海図を部屋で見るときに使うカウチがあるとカルヴァドスが説明してくれたように、カウチの前には、海図を広げるための大きなテーブルと、方角や風向き、船の速度から位置を特定したり、航路を決めるために必要な道具が並んでいたからだ。

(・・・・・・・・ここは、カルヴァドスさんの仕事場。このカウチを私が借りてしまったら、カルヴァドスさんは仕事を自分の部屋で出来なくなってしまう。だとしたら、間借りする私は我が儘を言うべきじゃない。夕べだってカルヴァドスさんは何もしなかった。さっきだって、無理矢理キスをするようなことをしなかった。だとしたら、私はカルヴァドスさんを信じるべき。もし、カルヴァドスさんとの間に何かが起こってしまっても、それは、婚約中にアルフとしたことだと言い張れば良いだけ。とにかく、一刻も早くお兄様を見つけて、つれて帰らなくちゃならない・・・・・・・・)

「どうした? 部屋が狭くてふあんになった?」
 カウチに座っているアイリーンに、カルヴァドスが声をかけた。
「ああ、それが、昨日も話したカウチ。俺と一緒に寝るのが嫌なら、カウチを使ってくれて構わない」
「でも、このカウチは、カルヴァドスさんのお仕事用ですよね?」
「ああ、邪魔なものは片付けるよ」
「いえ、お仕事の場所なら、私は、ベットを使わせていただきます」
 アイリーンの言葉に、カルヴァドスがドキリとしてアイリーンを見つめた。
「もしかして、レディ、俺に惚れたとか?」
「いえ、その。窓からも見えるわけですし、恋人同士が別々に寝ているのは、おかしいのではないかと・・・・・・」
「まあ、確かに。そうだな・・・・・・」
「なので、よろしくお願いします」
 アイリーンは立ち上がり、頭を下げた。
 備え付けの整理ダンスを二段と、ワードローブの半分をアイリーンのために空けたカルヴァドスは、アイリーンに荷物を解くように言ってから、腰につけている鍵の束から鍵を二つ取り外してアイリーンに手渡した。
「これは、部屋の鍵。留守にするときは、鍵をかけること。それから、こっちは、金庫の鍵」
 そう言ってカルヴァドスが見せたのは、ベッドの足元にある、フットカウチだった。
「こいつは、動かないように、床に固定されてるから、部屋からの持ち出しは不可能。俺は、貴重品は全部ここに入れてるから、レディも入れると良い。鍵は二つだけ。つまり、なくなったら、どっちかが持ち出したって事。犯人が特定できるわけだから、やらないだろ」
「はい。カルヴァドスさんの物には、極力触れないように、私の物も入れさせてください。お金が少しと、宝石を少し持ち出してきたので・・・・・・」
「了解。じゃあ、ゆっくり荷解きして、終わったら仮眠を取ると良い。出航の時には起こすから。デロスと最後の別れをしたいだろ?」
「はい!」
 まるで、心を読んだように気が付くカルヴァドスに、アイリーンはお礼の言葉も見つからないほど感謝していた。
「あ、忘れてた。最初の寄港地はパレマキリアの港になる。奴らには、嫌な思いを散々させられてるから、下りたくないだろ?」
「はい」
 アイリーンは言葉少なに答えた。
「船長にも、クルーにも話しておく。俺の恋人のアイリが一緒に旅にでるが、パレマキリアの奴に酷い目に合わされた経験があるから、パレマキリアでは降りないって」
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