お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 屋敷の自室で目を覚ましたアルフレッドは、勤務に間に合うように用意をすると、朝食も取らずに馬車を用意させた。
 それから、昨晩ビールを飲み交わしたカルヴァドスの泊まっていた宿に向かった。
 今日、出航すると聞いていたが、船の名前を聞いていなかった事を思い出し、まだ宿にいるなら、もう一度航海の安全を祈りたかったし、宿にいなくても、行きつけの宿だと言っていたので、女将なら船の名前を知っているだろうと思ってのことだった。
 制服姿で早朝に訪ねたアルフレッドに、女将は少し迷惑そうな顔をしたが、アルフレッドがカルヴァドスに会いに来たのだと分かると、急に愛想が良くなった。
「カルヴァドス様の船は、大海の北斗七星というエクソシア船籍の船ですわ。皇帝陛下の御用達船で、クーリエも扱う船ですから、貨物船と言うよりも、見た目は戦艦に近いって女の子達は言ってましたわ」
「それは、ガレオン船ってことか?」
 アルフレッドに問われ、女将は渋々頷いた。
「ええ、左様でございます。でも、驚きですわ。あの、カルヴァドス様に恋人ができたなんて・・・・・・」
 女将の言葉に、アルフレッドは耳を疑った。
「恋人? 独りで泊まったんじゃ無いのか?」
「昨日は、初めて恋人をお連れになったんですよ」

(・・・・・・・・今日出航だってのに、あの時間から、女性を釣りに行ったのか・・・・・・・・)

「とても上品で、美しい、デロス美人でしたわ。あの身のこなし、絶対に、どこかの貴族のご令嬢でしょうから、朝も暗いうちにコッソリ出発されたのも、駆け落ちだと、私踏んでおりますのよ」
 女将は得意げに言った。
「でも、カルヴァドスと私が別れたのは、随分遅い時間だったと思うが・・・・・・」
 アルフレッドは記憶をたどりながら問いかけた。
「いいえ。お相手の方は、ずっとお部屋から出ていらっしゃらずに、今朝も忍ぶようにでていらっしゃいましたのよ」
「どんな女性でしたか? 何か特徴は? 髪の色とか・・・・・・」
 しつこく問うアルフレッドに、女将は少し不信感を持ったようだった。
「さっきもお話ししたとおり、デロス美人です」
「肌が透けるように白い、美人。で、髪の色は?」
「それが、スカーフで髪をスッポリ覆っていらしたので、髪の色は見ておりませんの。でも、あの顔立ちなら、プラチナブンドでも、ブロンドでも、王女様のようなストロベリーブロンドでも、良くお似合いだと思いますわ」
 アルフレッドは、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。
 ある意味、しつこいくらいにアイリーンの事を聞きたがったこと。自分に対して、赤の他人とは思えないくらい、親切で、同情してくれ、最後は、もし探している女性にタリアレーナで出逢ったら伝えることはないかとまで言ってくれた親切なカルヴァドス。よく考えれば、カルヴァドス・カスケイドスなんて、偽名も良いところなのに、深く考えずに聞き流してしまったこと。全てが、自分が間抜けだと物語っているようにアルフレッドは感じた。

(・・・・・・・・間違いない。あの男がアイリを自分の恋人と偽り、船に載せると約束したんだ。だから、アイリはグリーンガーデンズに姿を見せず、そのまま行方をくらました。そして、あの男は、アイリの事を色々聞いて・・・・・・。いや、まてよ、何か大切なことを聞いた気がする。そうだ! あの男、ずっとアイリの事を好きだって言ってた。アイリが姫なら手が出せなくても、町娘なら、何をするか分からない。このままじゃ、アイリの貞操が・・・・・・。でも、ここで俺が船に乗り込み、アイリを船から降ろしたら、アイリが、神殿を抜け出し、タリアレーナに行こうとしていることがパレマキリアに知れてしまう。そんな事、アイリは絶対に望まない。それよりも何よりも、ウィリアムの安否がわからない今、パレマキリアと問題を起こすわけには行かないんだ。例え、アイリを犠牲にしたとしても、デロスはウィリアムを取り戻さなくてはならない。もし、ウィリアムがタリアレーナに居ると知れ、パレマキリアから刺客が送られる様なことになれば、アイリを無理矢理妻にするダリウス王子が、ひいてはパレマキリアがデロスの宗主国になってしまう。パレマキリアが宗主国になれば、奴らは税率を上げてデロスの民を苦しめる。特産品の真珠は全て上納させられ、デロスの民には還元されなくなる。漁業だけになれば、デロスは一気に貧しい国に転落し、属国どころか、本当にパレマキリアの一半島として併合されてしまう。そうなれば、陛下の尊い、民あっての国。民あっての王家という教えは、絵に描いた餅。デロスは民を無くして国を失い、民を亡くして王家も滅亡してしまう・・・・・・・・)

 じっと考え込むアルフレッドを女将は不審気にみつめた。
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