お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 出航間近の船の中は、走り回るクルーの足音が響き、祭りのような騒ぎだったが、疲れ切っていたアイリーンは深い眠りの中で目を覚ますこともなかった。

 部屋に戻ったカルヴァドスは、静かに眠るアイリーンの姿に、アイリーンをそのまま寝かしておいてやりたいと思った。しかし、しばらくの間とは言え、母国を離れるアイリーンに、その姿を見せないまま、沖へ出てしまう事は出来ず、カルヴァドスはアイリーンを揺り起こした。
「アイリ、アイリ、起きてくれ!」
「アルフ? ローズはどこ?」
 寝ぼけているのか、アイリーンは目をこすりながら辺りを見回した。
「アイジー? ラフディー?」
 二匹の名前を呼んでから、アイリーンは慌てて口を閉じた。
 でも、カルヴァドスには、『アルフ』というのがアルフレッドの事で、『ローズ』というのが侍女のローズマリー、そして『アイジー』がアイゼンハイム、『ラフディー』がラフカディオである事は既に分かっていた。
「レディ、職場の夢かい?」
 カルヴァドスに言われ、アイリーンはコクリと頷いた。
「本当はもっと寝かせておいてやりたかったんだが、出航だ。今見ておかないと、しばらく、デロスを見られなくなる。それに、船旅が初めてなら、レディは海の真珠と呼ばれるデロスを自分の目では見たことがないだろ? さあ、俺の手を取って、一緒にデロス、海の真珠を見に行こう」
 カルヴァドスの言葉に頷くと、アイリーンは念のためスカーフで髪の毛を隠してからカルヴァドスの手を取った。
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