お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 地図を見つめ、カルヴァドスは太陽と位置と風邪の強さから、目的の港への航路を確認し、操舵手が分かりやすいように赤いペンでルートを引いていった。
 天気は東から変わるので常に東の空の監視は怠らないように、マストの上で見張りの任務についているクルー達は、前方の空と船影に目を光らせていた。
「カルヴァドス、本当にあの娘っ子連れてきたんだってな?」
 船長質から姿を現した船長が、興味深そうに言った。
 今まで、どんなに熱い仲でも、親密に過ごした女性でも、カルヴァドスが船に連れてきた事は一度もなかったのだから、付き合いの長い船長からしたら、アイリーンのどこが特別なのか、知りたくてたまらないと言ったところだった。
「ああ、当然だ。ずっと欲しかったものが俺の腕の中に飛び込んできたんだから、手放す理由はない」
 カルヴァドスの答えに、船長が首を傾げた。
「お前のずっと欲しがってた女ってのは、デロスの姫巫女じゃなかったのか?」
「船長、それ以上、俺と彼女のことに口を出すなら、俺はエクソシアで船を下りる。船なんて、幾らでもあるんだ。俺は、別にこの船に拘りはないって、わかってるよな?」
 とても、一等航海士が船長に言う言葉では無かったが、船長は青ざめて頭を横に振った。
「分かったよ、カルヴァドス。悪かった。もう、何もきかねぇよ。あんたのおかげで、皇帝陛下の御用達船に指定され、クーリエの取り扱い認可まで貰えたんだ。あんたが降りたら、全部、取り消されるって言われてる。頼むから、気分を害さないでくれよ」
 船長は、腫れ物にさわるようにカルヴァドスに丁寧に頼んだ。
「それに、俺が下りたら、ドクター、操舵手、諸々、皆下りちまうからなぁ。船長独りじゃ船は動かせないよな」
 カルヴァドスは言うと、操舵手に身振りで合図して階段を下りた。

 部屋の前を通りかかると、アイリーンはまだ苦しそうだったが、吐き気は止まったのか、ぐったりと横になって休んでいるのが見えた。
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