エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
憧れの笹原から未来を託すと言われたと知れば、碧は大喜びするはずだ。
あまりの感動に泣いてしまうかもしれない。
まだ見たことのない碧の泣き顔が頭に浮かんで、珠希はたまらなく碧に会いたくなる。

「だけど、優秀過ぎる医師を夫に持つのも考えものだね」

笹原は気まずげに頭をかいている。

「……え?」
「僕も新婚さんの邪魔をして悪いとは思ってるんだけど、つい彼に頼ってしまうんだよね。昨夜も立て続けに急患が運び込まれて、オペを任せてしまったし。今朝はそのまま外来だ。珠希さんに寂しい思いをさせてるってわかってるんだよ。でもごめんね」

自嘲気味にそう言って頭を下げている笹原に、珠希は「とんでもないです」と慌てて声をかける。
白石病院の顔ともいえる笹原に謝罪させるなど、周囲からどう思われるのかわからない。
回り回って碧の評判に傷がつくかも知れないと、ヒヤヒヤする。

「私なら大丈夫です。たしかに寂しいですけど、碧さんが頼りにされているのはわかっていますし、結婚前にも呼び出しの電話を受けて病院に駆けつけることが何度もあったので。覚悟はしていましたから」

迷いのない珠希の言葉に、笹原は一瞬目を開き、すぐさま安堵の息を吐き出した。

「ありがとう。そう言ってもらえると少しは気が楽になるよ」

笹原はホッと肩を落とし、手元のコーヒーを飲み干した。

「それにしても、宗崎は仕事ばかりで恋人がいるって話はまるでなかったんだよ。とくにこの五年はシフトを詰めて仕事に埋没してたから、心配してたんだ」
「あ、はい……」

珠希は五年という言葉が気になった。
碧の口からも聞いたような気がしたのだ。
かといって、記憶をたどってもピンとこない。
五年前に亡くなった祖父の話をしたばかりで、記憶が混乱しているのかもしれない。

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