エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「そこまで心配しなくても大丈夫。昨夜は笹原先生のおごりで病棟の職員全員焼き肉弁当だったから安心しろ。だけど、ごめんな。結婚して早々ひとりにしてばかりで、ごめん」

碧の手が、珠希の頭を優しく撫でる。

「あ……そうだったんですね」

謝罪の理由を聞いて、珠希は気が抜けた声でつぶやく。
だからといって紗雪との関係がはっきりしたわけではないが、ひとまずホッと胸を撫で下ろした。
昨日目の当たりにした出来事にはショックを受け傷ついたが、何度考えても珠希には碧のプライベートに立ち入る権利はないという答えにたどりつく。
この結婚は、碧が仕事に集中するための結婚だ。
珠希がするべきことは、その大前提を守るために、碧の体調を管理して気分良く仕事に集中してもらうこと。
それだけだ。
だから今日も、碧の好物ばかりを用意して帰りを待っていたのだ。

「あ、すぐに食事にしますか? まずはゆっくりお風呂に入りますか?」 

珠希は碧の手からワインを引き取ると、ワインセラーに戻しておいた。
今の碧の顔色から考えると、今日は控えておいたほうがよさそうだ。
それに、いつ病院から呼び出されるのかわからないのだ、ワインどころじゃないだろう。

「あ、ワインだけじゃなく、おいしそうなイチゴもいただいたので食後に出しますね。あの、碧さん?」

セラーの扉を閉じ珠希が振り返ると、目の前に碧が立っていた。
驚いてとっさに後ずさった珠希の身体を碧は抱き寄せた。

「まずは風呂にしようか」

碧は珠希の耳もとに唇を寄せ、つぶやく。肌に唇の熱が触れ、珠希の身体がぶるりと震えた。

「わ、わかりました……じゃあ、すぐにお湯を張って……んっ」

珠希の首筋をくすぐっていた碧の唇が、珠希の唇に重なった。
熱く柔らかな唇にすっぽり覆われて、珠希の全身から力が抜けていく。
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