エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
結婚して以来、絶えずどこかが触れ合っていることに慣らされた身体が、数日ぶりに抱きしめられ、歓喜しているのがわかる。
珠希は自ら唇を差し出して、碧とのキスに酔いしれた。

「珠希……」
「……んっ」

キッチンに、どちらのものかわからない艶めいた声が響く。

「珠希」

愛しげにつぶやいた碧は舌先で珠希の唇を撫であげると、一度唇を強く押し当て離れていった。
唇に残る余韻に、珠希の身体がくらりと揺れる。

「会いたかった」

珠希の顔を覗き込み、碧は甘い声でささやいた。
こつんと触れ合う額が熱を帯びる。

「私も、会いたかったです」

見つめ返し、想いを込めて答える。
昨日、我慢できずに会いに行ったことは、胸にしまっておく。

「そういえば、笹原先生に病院で会ったんだって? 綺麗な女性がいると思ってナンパしたら、珠希だったから泣く泣くあきらめたって。この五年で一気に綺麗になって驚いたって言ってたぞ。そういえば、笹原先生の奥さん、珠希に似ていた気がするな」

大げさに顔をしかめる碧に、珠希は呆れたように笑う。

「ナンパって、冗談ですよ。笹原先生とは五年ぶりにお会いして、昔話をしていただけです。あ、そういえば」

珠希は笹原が自身の後継者として、碧に期待していると言っていたことを思い出し、笑みを浮かべた。

「なんだ?」

不意に黙り込んだ珠希に、碧はいぶかしげな目を向ける。

「なんでもないんです」

笹原とのやり取りは、いずれ笹原の口から直接碧に届けられるはずだ。
ここで話さないほうがいいだろうと、珠希は小さく首を振り、ごまかした。

「へえ。相手が笹原先生とはいえ、俺以外の男となにか秘密でもあるのか? なんだか妬けるな」

碧は表情を変え、低い声で珠希に問いかける。
冗談だとわかっていても、強い口調で迫られて、珠希は小さく息をのんだ。
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