エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「休みを合わせてふたりで引き取りに行くつもりだったけど、笹原先生とか同期のあいつとかの話を聞いて、急いで取りに行ったんだ」
「……どういうことですか?」

結婚指輪と笹原がどうにも結びつかず、珠希は首をかしげた。そしてあの宝石店なら、また行きたかったのにと、密かに悔しがる。

「それよりも、この指輪はどうするんですか? 結婚式までしまっておくんですか?」

指輪の輝きから目が離せない珠希は、碧に顔を向けることなく問いかける。内側に埋められているはずのサファイヤや、入籍記念日の刻印が気になって仕方がない。

「は? 結婚式までしまっておくなんてするわけないだろ。なんのために今日引き取ってきたと思って……」

呆れた声がその場に響いたと同時に、碧はケースの中から小さい方の指輪を手に取り、珠希の左手薬指にすっと通した。
その間、わずか数秒程度。
いきなり左手に幸せの重みを与えられ、珠希は息を止める。
そしてゆっくりと左手を目の前にかざした。
飾り気のないストレートラインの上下に、ミル打ちが施されているシンプルな指輪だ。
傷ひとつないプラチナが品のある輝きを放っている。 

「素敵ですね」

感極まった言葉とともに、珠希の目から涙がこぼれ落ちた。
今まで碧の前で流した涙とは少し違う。これはうれし涙だ。

「俺のためだと思って、外さずにつけておいてくれ」

珠希の頬を拭い、碧は照れくさそうに言う。

「じゃあ、このままずっとつけていていいんですか?」

軽くしゃくり上げている珠希に、碧は「もちろん」と真面目な顔でうなずいた。

「珠希が面倒な男に声をかけられないために、ちゃんとつけてろ」
「またそれですか……心配のしすぎです。笹原先生も同期の方も、碧さんをからかってるだけで――」
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