エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「あ、うん、お兄ちゃんがね……あ、ううん、それより、碧さんにも電話がかかってきてたよね。なんだったの?」

拓真のことで忘れていたが、碧のスマホも同じタイミングで鳴っていた。

「呼び出し?」

珠希の問いに、碧は表情を固くしうなずいた。

「容態が気になる患者さんがいて、その連絡。今日は笹原先生がいるから心配ないんだけど、悪い、行ってくるわ」

すでに気持ちは患者に向けられているのか、今の碧に朝から珠希をからかい続けていた名残はどこにもない。
ラフなトレーナー姿なのに、まるで白衣を着ているような錯覚さえ覚える。

「帰りは何時になるかわからないから、戸締まりには気をつけろよ」

そう言って着替えに向かう碧の背中に、珠希は慌てて声をかけた。

「私も今から白石病院に行くから、一緒に行ってもいい?」 




白石病院は土曜日もほとんどの診療科が午後からも外来を受け付けていて、一階の受付はかなり混んでいた。
珠希はクリスマスイベントの緊急打ち合わせを終えて、拓真とふたり一階に降りてきた。

「じゃあ、俺は帰るけど、送っていこうか?」

拓真は車のキーを目の前で揺らしている。 

「ううん、もう少し碧さんを待ってみるから大丈夫」

珠希は今日新しく配られたイベントのプログラムをバッグにしまいながら、にっこり笑って答えた。

「はいはい、新婚さんのいい笑顔、ごちそうさま。今日はせっかくの休みなのに呼び出して悪かったな」
「ううん。結局碧さんも呼び出しで病院に来てるから気にしないで。それよりお兄ちゃんとまた一緒にステージに立てるのがうれしくて。電話をもらったときは急になに言ってるんだってむかついたけど。今すごくわくわくしてる」

今日一番の笑顔を見せる珠希に、拓真も珍しく照れている。
ほんのり耳を赤く染め、束の間視線を泳がせる。

「ふふっ。やっぱりお兄ちゃんの演奏、大好き」
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