エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
『脳外科医を志す者の多くが、いつか自分がこの病気の治療法を見つけたいと考えています。今回の手術で腫瘍を可能な限り摘出しましたが、隠れた腫瘍細胞が周囲にしみ込んで残っていると思われます。再発した場合の標準治療は、確立されていません』
笹原医師は苦しげにそう言って、頭を下げた。その姿を前にして、珠希たち家族は祖父の病状が相当深刻なものだと覚悟した。
それから間もなく、恐れていた再発が確認され祖父はあっという間に亡くなった。
進行が早いと知らされていたが、あまりの早さに珠希は強いショックを受けた。
覚悟したつもりでいたが、心のどこかで笹原のような有名な医師なら助けてくれるのではないかと、期待していたのだ。
けれど医師はすべての病気を治せる魔法使いではない。
どれほど患者を思い精一杯の治療を施しても、助けられない命がある。
そして、祖父が誇りにしていた和合製薬が開発した薬でも、治せないのだ。
珠希の父もその現実を思い知らされ、悔しそうに肩を震わせていた。
医師でも製薬会社の社長でもどうにもできない病気がある。
珠希は虚しさを感じ、そんな自分は製薬会社の社長には向いていないと感じずにはいられなかった。
それ以来祖父を思い出すのがつらくて白石病院を避け続け、クリスマスイベントの演奏者に指名されてからは、緊張が続いていた。
けれど白石病院は全面改装されていて、祖父を思い出すことなく打ち合わせを終えることができた。
イベント当日にもいい演奏ができそうだと安堵し、緊張感から解放された。
そのとき信号が青に変わり周囲が動き出した。
珠希も流れに合わせて歩き出す。
目の前には五年前にはなかったレストラン。
そして背後の白石病院に当時の面影はない。
祖父の死から五年が経ち、その間の変化の大きさを実感する。
珠希は自分もそろそろ気持ちを切り替える時期なのかもしれないと考えながら交差点を渡り終えた。
笹原医師は苦しげにそう言って、頭を下げた。その姿を前にして、珠希たち家族は祖父の病状が相当深刻なものだと覚悟した。
それから間もなく、恐れていた再発が確認され祖父はあっという間に亡くなった。
進行が早いと知らされていたが、あまりの早さに珠希は強いショックを受けた。
覚悟したつもりでいたが、心のどこかで笹原のような有名な医師なら助けてくれるのではないかと、期待していたのだ。
けれど医師はすべての病気を治せる魔法使いではない。
どれほど患者を思い精一杯の治療を施しても、助けられない命がある。
そして、祖父が誇りにしていた和合製薬が開発した薬でも、治せないのだ。
珠希の父もその現実を思い知らされ、悔しそうに肩を震わせていた。
医師でも製薬会社の社長でもどうにもできない病気がある。
珠希は虚しさを感じ、そんな自分は製薬会社の社長には向いていないと感じずにはいられなかった。
それ以来祖父を思い出すのがつらくて白石病院を避け続け、クリスマスイベントの演奏者に指名されてからは、緊張が続いていた。
けれど白石病院は全面改装されていて、祖父を思い出すことなく打ち合わせを終えることができた。
イベント当日にもいい演奏ができそうだと安堵し、緊張感から解放された。
そのとき信号が青に変わり周囲が動き出した。
珠希も流れに合わせて歩き出す。
目の前には五年前にはなかったレストラン。
そして背後の白石病院に当時の面影はない。
祖父の死から五年が経ち、その間の変化の大きさを実感する。
珠希は自分もそろそろ気持ちを切り替える時期なのかもしれないと考えながら交差点を渡り終えた。