エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
わずかに張りつめていた場の空気を明るくしようとしてか、碧の口調は軽やかだ。
「いざ医師になったらなったで日々勉強することばかりでプライベートはほぼゼロ。いずれ実家の病院に入ると決まってるのもあって恋愛どころじゃなかった」
そうはいっても立場も見た目も抜群の碧のことだ、女性からのアプローチは多かっただろう。
今も話の合間に見せる憂いを帯びた表情がたまらなく魅力的で、別のテーブルで食事中の女性たちからちらちら視線を向けられている。
珠希は自分が碧と一緒にいるのは場違いな気がして落ち着かず、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
「俺、白石病院で研修医として働き始めたとき、初めて自分の生まれを恨んだよ」
「え?」
脈絡のない言葉に、珠希は首をひねる。
大病院の後継者という立場のどこに、恨む要素があるのかわからない。
「白石病院に身を置いた途端、父の病院が物足りなくなったんだ。もちろん、地域の基幹病院として父やたくさんの医師が力を尽くしていて、彼らを尊敬してるし目標にもしてる。だけど、白石病院でまだまだ経験を積みたいと思わずにはいられなかった」
その思いを何度も頭の中で繰り返していたのだろう。碧の口調はひどく滑らかだ。
「白石病院の方が、規模が大きいからですか?」
「もちろんそれもある。診療科が多くて多くの症例に触れることができるから、実地で学べるしね。だけど、それだけじゃないんだ。なにより白石病院の脳外科には笹原先生がいる。それが一番の理由」
「笹原先生……」
その名前に、珠希は肩を揺らした。
「俺、もともとは外科医を志していたんだ。だけど笹原先生に会ってすぐに脳外科医になると決めた。先生の腕のたしかさは言うまでもないけど、人柄が素晴らしい。それこそ俺には遠い人だけど、彼の下で学びたい」
珠希の脳裏に祖父の病名を家族に伝えたときの笹原の表情がよみがえる。
「いざ医師になったらなったで日々勉強することばかりでプライベートはほぼゼロ。いずれ実家の病院に入ると決まってるのもあって恋愛どころじゃなかった」
そうはいっても立場も見た目も抜群の碧のことだ、女性からのアプローチは多かっただろう。
今も話の合間に見せる憂いを帯びた表情がたまらなく魅力的で、別のテーブルで食事中の女性たちからちらちら視線を向けられている。
珠希は自分が碧と一緒にいるのは場違いな気がして落ち着かず、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
「俺、白石病院で研修医として働き始めたとき、初めて自分の生まれを恨んだよ」
「え?」
脈絡のない言葉に、珠希は首をひねる。
大病院の後継者という立場のどこに、恨む要素があるのかわからない。
「白石病院に身を置いた途端、父の病院が物足りなくなったんだ。もちろん、地域の基幹病院として父やたくさんの医師が力を尽くしていて、彼らを尊敬してるし目標にもしてる。だけど、白石病院でまだまだ経験を積みたいと思わずにはいられなかった」
その思いを何度も頭の中で繰り返していたのだろう。碧の口調はひどく滑らかだ。
「白石病院の方が、規模が大きいからですか?」
「もちろんそれもある。診療科が多くて多くの症例に触れることができるから、実地で学べるしね。だけど、それだけじゃないんだ。なにより白石病院の脳外科には笹原先生がいる。それが一番の理由」
「笹原先生……」
その名前に、珠希は肩を揺らした。
「俺、もともとは外科医を志していたんだ。だけど笹原先生に会ってすぐに脳外科医になると決めた。先生の腕のたしかさは言うまでもないけど、人柄が素晴らしい。それこそ俺には遠い人だけど、彼の下で学びたい」
珠希の脳裏に祖父の病名を家族に伝えたときの笹原の表情がよみがえる。