エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
そうでなければ遥香が気を許し〝おじいちゃん〟などと言ってからかうわけがないのだ。

「だといいけど。実家の病院に戻るときまでに、笹原先生に近づけるように精進するよ」

くしゃりと笑う碧の表情は晴れやかで、今では気持ちを整理し実家の病院に戻る未来を受け入れているようだ。

「そういえば、遥香ちゃんから宿題をもらってたんだ」

碧は手元に置いていたスマホを手に取った。

「宿題?」
「そう。明日までにグリシーヌのメンバーの顔と名前を覚えてきてって言われてるんだ。俺がメンバーは何人なのかも知らないって言ったら、遥香のおじいちゃんと一緒だって引かれてしまって。あ、これこれ。この写真を見て答えるんだ」

碧が珠希に向けたスマホの画面には、グリシーヌのメンバー全員が並ぶ写真が表示されている。

「たしかにかっこいいけど、俺には全員同じ顔に見えるんだよな。髪の長さと色で覚えるしかないか」

碧はスマホを見つめぶつぶつ言っている。
けれど文句を言いながらも順に名前を絞り出し、どうにか正解を口にする。
たった五人とはいえ、それなりに努力して覚えたのだろう。

「この真ん中の男性が、さっきも言いましたけど私の一押しです」

珠希は身を乗り出し、スマホの画面を指差した。

「え、そうだったっけ。えっと、藤……なつき」

自信を滲ませた声とともに、碧は胸を張る。

「いえ。藤夏目です。惜しいですね」
「なんだよ……」

珠希に即座に切り返され、碧は頭を抱えた。

「これじゃおじいちゃんと一緒って言われても仕方がないよな」
「大丈夫ですよ。ひと晩あるので頑張ってください」

ひどく落ち込む碧に、珠希はクスクスと笑う。

「とりあえず五人でよかったよ。十人もいたら絶対にお手上げだった」
「五人ならなんとかなりそうですね」
「だな。えっと、右端が……え?」
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