エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
鋭い声が漏れたと同時に、宗崎の表情が引き締まる。なにかあったのかと、珠希は身を乗り出した。

「どうしたんですか? あ、電話……?」

見ると碧のスマホが着信を告げ光っている。画面には〝白石病院脳外科〟と出ている。

「悪い。ちょっと出てくる」

碧は素早く席を立ち、店の外へと出て行った。
病院の名前を確認した途端、碧はそれまでまとっていた優しい雰囲気を消し、厳しい表情を浮かべた。
珠希の存在を一瞬で意識の外に押しやり、気持ちを医師に切り替えたのだ。その頼もしく凜々しい後ろ姿を、珠希は目で追いかけた。
今日顔を合わせてからあらゆる碧を見てきたが、やはり医師としての彼が一番魅力的だと、珠希は感じていた。




「あれからふたりでどこに行ったの? 碧さん、とても素敵な方だったわね」
「うん……」

珠希は家に帰るなり始まった母からの質問攻めに、うんざりしていた。リビングのソファに座らされ、碧のことをあれこれ聞かれているのだ。
お見合い、そして男性とふたりきりでの食事。
どれも初めての経験で心身ともに疲れている珠希は、しばらくそっとしておいてほしいとため息をついた。

「碧さん、背が高くてスーツ姿がサマになってたわね。白衣も着こなしているのかしら。珠希は白石病院で碧さんと会ってるんでしょう? どうなの? 白衣姿も素敵なの?」

そっとしておいてほしいという珠希の願いは、残念ながら母には通じないようだ。母は好奇心を隠しきれない瞳を珠希に向け、うずうずしながら答えを待っている。

「……もちろん、白衣姿も素敵だったよ」

母の期待に気圧されて、珠希は答えた。たしかに白衣姿の碧は見とれるほどかっこよかった。今も清潔な白をまとう彼の姿を思い出すだけで、珠希の胸は甘酸っぱい感情でいっぱいになる。
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