エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
珠希の反応をうかがうように、ゆったりとした動きで優しいキスが繰り返される。
珠希は熱い唇を受け止めながら、身体の奥が碧の荒い息づかいに反応し次第にそわそわしてくるのを感じた。
誰に教わったわけでもないのに唇に落とされる刺激に吐息を漏らし、ぎこちない動きで応えている。
そんな自分が恥ずかしくてたまらないのに、気づけば目を閉じ自ら唇を差し出している。
碧は最後に珠希の唇を何度かついばむと、唇を押しつけ名残惜しそうに離れていった。
唇が解放され、珠希は放心したようにぼんやりと碧を見つめた。
今まで唇にあった熱が遠ざかり、それを思いの外寂しいと感じる自分に驚いている。
いきなり始まったキスなのに、逃げようとも拒もうともしないどころか、いつの間にか自
分から唇を押しつけていた。

「珠希」

碧は珠希の顔を再び両手で包み込むと、神妙な表情を浮かべ口を開く。

「結婚しよう。今すぐ」

静かな部屋に、碧のきっぱりとした声が響いた。
碧の顔はひどく厳かで、冗談を言っているとは思えない。

「俺は珠希と結婚したい。……食事のあとで言うつもりだったのに、かわいくて我慢できなかった」

続けざまに放たれる碧の甘すぎる言葉に、珠希の胸が歓喜で震える。
碧との縁を、ここで切りたくない。
碧と結婚したい。
必死で胸の奥に押しやっていた本音が弾かれるように溢れ出て、珠希をひどく混乱させている。

「私……」

けれど、どれだけ混乱し悩んでも、碧と結婚できないという思いは変えられない。
珠希は碧の胸の温もりを記憶するように一度目を閉じた。そして。

「私、宗崎さんとの結婚はお受け――」
「お待たせして誠に申し訳ありません。お食事をお持ちいたしました」

珠希が意を決して口を開いたそのとき、ふすま越しに仲居の声が聞こえ、珠希の言葉は遮られた。




人気の鰻は評判を裏切らないおいしさだった。
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