エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
肉厚の鰻と絶妙な甘さのタレがうまくマッチしていて、食べ応えも抜群。
食べることに熱心な珠希は、普段以上に箸が進んだ。

「ごちそうさまでした。宗崎さんがこのお店に通っている理由がわかりました。とてもおいしかったです」

珠希は満足した笑みを浮かべ、綺麗に食べ終えた重に蓋をした。

「最近忙しくて、ここは俺も久しぶりなんだ。この時期仕方がないんだけど」
「そんなに忙しいんですか?」
「うーん。忙しいのは俺だけじゃないからな。他のドクターも看護師たちもなかなかハード。俺も病院に詰めてて、今朝一週間ぶりに家に帰ったんだ」
「一週間?」 

呼び出しが頻繁にあるうえに一週間の連勤まで。珠希はそのハードな仕事ぶりに眉をひそめた。

「体調は大丈夫なんですか? あまり寝てないんですよね?」

一週間一睡もしていないなどさすがにありえないが、激務には違いない。
それが医師の日常だとしても、オーバーワークが続けばどこかにしわ寄せがくる。

「そこまで心配しなくても、ちゃんと考えてるから大丈夫。それより、さっきの話、続けていいか?」

碧は手にしていた湯飲みを手元に置き、話を切り出した。
食事中にこやかだった表情を消し、まっすぐ珠希を見つめている。
せっかくだからまずはおいしい食事を楽しもうという碧の提案に甘えて話を後回しにしていたが、いよいよ本題に入るようだ。
珠希も表情を改め、姿勢を正した。そして、食事中も何度となく自問し出した答えを口にした。

「私は、宗崎さんとは結婚できません」

口にした途端、珠希の熱い唇を思い出してなんとも言えない甘い感覚が胸に広がった。

「……どうして?」 

珠希の答えを察していたのか、碧は表情を変えるでもなく落ち着いている。
 理が運ばれてくる直前の珠希の様子から、あらかじめ予測していたのかもしれない。

「他に好きな男でもいる?」
「まさか、いません」
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