エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
これまで恋愛どころか初恋も未経験で、好きな男性の存在などあり得ない。おまけについさっき初めてのキスを経験をしたばかりだ。

「だったら俺との結婚になんの問題もないよね」
「え?」
「そうだろ? 好きな男がいないなら、俺と結婚してご家族を安心させるのがベストだと思うけど」

家族という言葉に、珠希は表情を強張らせた。
同時に、碧はこの結婚の裏事情を知っていて、納得もしているのだと確信する。
そうでなければ、敢えてこの場で家族の話を持ち出すわけがないのだから。
それにしても、実家の病院と仕事上の付き合いしかない和合製薬のために、碧はどうして珠希との結婚を受け入れているのだろう。
碧にはメリットがないどころか負担ばかりを背負わされることに、気づいていないのだろうか。
ここにきても答えを出せない疑問に、珠希はひどく混乱する。

「俺と結婚すれば、ご両親と拓真さんは厄介な悩みから解放されて、仕事に集中できるはずだ。珠希のことなら俺が守るから心配いらない――」
「宗崎さん。聞いていいですか?」

珠希はいよいよ我慢できず、淡々と説得を繰り返す続ける碧の言葉を遮った。
碧がここまで珠希との結婚を望む理由が気になって仕方がないのだ。

「……なに?」

話の腰を折られたにもかかわらず、碧から優しい視線を向けられて珠希はホッとする。
その勢いで、疑問をぶつけてみることにした。

「この先もしも、私と結婚したとして。宗崎さんになにかメリットはあるんでしょうか」
「は? メリット? ってなんのことだ?」

碧は訳がわからないとばかりに眉を寄せる。

「その……私と結婚しても我が家の事情に巻き込まれるだけで、宗崎さんには得るものがないんじゃないかと思っていて。……だから宗崎さんとは結婚できません」
「おい、事情って」
< 79 / 179 >

この作品をシェア

pagetop