エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「両親も兄も、話せばわかってくれるはずです。宗崎さんとの結婚以外に、なにか手立てがあるはずだし、家族一丸で向き合えばなんとかなると思います」
「そんな簡単に片付くわけがないだろ……いや、まさか、知ってるのか?」

碧の探るような固い声が部屋に響き、珠希はこくりとうなずいた。

「事情が事情なので、両親も兄も私に言えずにいると思うんですけど、こういう問題が起きたときこそ家族の絆で対処するべきだと……あの?」

見ると、珠希の言葉によほど驚いているのか、碧が目を丸くし呆然としている。

「事情って、珠希が不安になるから話さないでおこうって決めて……え、誰から聞いたんだ?」

ひどくうろたえている碧に、珠希は当惑する。

「誰からって……誰からも聞いてませんけど」
「だったらどうして、事情を知ってるんだ?」
「それは簡単です」

この質問には、すぐに答えられる。
珠希はひとつ息を吐き出して、落ち着いた笑みを浮かべた。

「両親も兄も、今まで私に結婚はもちろん、お見合いしろとも言ったことがなかったんです。それなのに突然人が変わったように強引にお見合いをさせて、私の気持ちは二の次で結婚に向けて動いてるんです。これはおかしいって、すぐにピンときました」
「ピンと?」

碧はいぶかしげに眉を寄せ、珠希を見つめる。

「はい。父の会社、和合製薬の経営状況がよくないんですよね」
「は……?」

声を落とした珠希の言葉に、碧はぽかんとしている。

「……い、いや、それは違う」
「気を使っていただかなくても大丈夫です。今はもう、受け止めてますから」
「受け止めてって……」

毅然とした珠希の口ぶりに、碧は気圧されている。
まさか珠希が見合いの事情を察しているとは想像もしていなかったのだろう。

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