エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
あまりにも多い着信の数に画面から目が離せず、珠希は碧がうなずくのを視界の隅で確認する。

「あの日偶然顔を合わせて以来、頻繁にかかってくるんだ」

碧は面倒くさそうにそう言って、ため息を吐く。

「連日この調子だから参ってる」

呆れた声で話しながら、碧は画面をスクロールする。

「うわ……紗雪さんだらけ」

ここ一週間日付をさかのぼってみても、そのほとんどが紗雪、そして病院からだった。

「どうしてこんなに電話を……?」
「仕事中にかかってくることも多いから、出てないんだ。メッセージには会って話がしたいって書いてあるから、そんな感じだろうと思う」

スマホを座卓に置いて、碧は肩をすくめる。

「学生時代の思い出話をするってタイプじゃないし、俺が彼女の気持ちを受け入れなかったから、その意地とかだろうな」
「はあ……」

意地と聞いても恋愛経験ゼロの珠希にはピンとこない。
結局、紗雪が今も碧のことが好きだということだろうか。
けれど、海外にいたとはいえ五年もの間連絡ひとつ取らなかった碧に、今も気持ちが残っているとは思えない。

「実は病院で彼女を見かけたことがあるんだ」

深刻な表情で碧が話を続ける。

「診療に影響が出るとまずいから困ってる」
「それはそうですよね」

あれだけ多くの電話やメッセージが入るだけでも相当滅入りそうだが、職場にまでおしかけられたとなれば、その心労はかなりのものだろう。
ただでさえ碧は激務が続いているのに、これでは心身ともに疲弊していくばかりだ。

「大丈夫ですか?」

珠希は碧に身体を寄せ、碧の顔を覗きこむ。
紗雪からの厄介な電話について話していたからか、碧の顔全体が陰りを帯びているような気がした。
今日も顔を合わせて以来、そんな悩みを抱えているなどチラリとも見せなかった碧の心情を察し、珠希の胸は切なさでいっぱいになる。
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