冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

4.


 桜の花弁が鬱陶しい。優しい春風にのって凛子の顔にヒラリ、ヒラリとぶつかってくる。


「こんな事思った事なかったのに」


 渋谷食品へ向かう途中にある並木道は毎年春になるとズラリと並んだ桜の木が辺り一面を柔らかな桃色で染めていた。凛子は花の中で桜が一番好きだ。だから毎年この並木道を楽しみにしていたのに。今日の自分はおかしい。大好きな桜の花弁が鬱陶しいと感じてしまうなんて。でも原因は分かっていた。昨日の大事件のせいだ。


「優ちゃんにどんな顔して会えばいいんだろ」


 凛子はハァと深い溜息をつく。


「会いたくないな……」


 喧嘩をしてしまった時、同じ会社っていうのは厄介だと今更気づいた。それでも仕事に行かなくては行けないのは社会人として当たり前なこと。凛子は背中に十キロの米でも背負っているかのように足取りがなかなか進まなかった。

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