冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
いい気分でトイレを出た凛子は広報部に軽い足取りで向かった。朝から希にも心配をかけてしまったから、せめて会社内では元気な自分でいよう。背筋をピンと伸ばし、目線を遠くに向けた時、ドクンと凛子の心臓が大きく動いた。
(優ちゃん……)
目の前から優と一樹が歩いてくる。幸い優はまだ凛子の姿に気がついていないようだ。一歩踏み出そうと決心はしたものの、まだ心の準備が出来ていない。優の口から婚約者の話を聞けるほどまだ凛子のメンタルは強くないのだ。
(もう少し時間を下さいっ……)
凛子はとっさに顔を俯かせ、優の視界に映らないよう身体をできるだけ小さくし、足の回転速度を早めた。
あと、五メートル。あと一メートル。
「おはよう御座います」
いつもより低い声で顔を俯かせながら挨拶を交わし、すれ違う、予定だった。
「凛子っ」
腕を捕まれ、優に動きを止められる。凛子のバレないための小さな努力は無駄だったらしい。