誓ったはずの、きみへの愛


「――愛を誓いますか?」


 神官の定型的な台詞に、顔を上げる。
 頭上から光の降り注ぐ教会、ドルッシオ領内に古くからある教会だ。外観も内装も今どきの華やかさはないけれど、だからこそこれが現実であると実感が湧くように思う。
 背後にはあたたかな眼差しで祝福する家族、友人たち。そして、隣には愛しいきみ。

 長い道のりだったようにも、案外あっという間だったようにも思える。
 目の前でとろけるような微笑みを浮かべるきみの姿に、僕は胸いっぱいになって、答えるべき言葉を詰まらせる。

 オスカー様?

 と、不思議そうに、不安そうに、名前を呼ぶきみを安心させなければならないのに。
 愛を誓いますか、はい、だなんて形式的なやり取りではこの気持ちを伝えられないのは明らかで、でもそう答えるしかないのも確かで、僕は静かに深く呼吸をして、すぐそばにある華奢な手をそっと取って指を絡めた。

 我が国の婚姻の誓いの手順に従い、向かい合って正面から目を合わせる。
 小指を飾る婚約指輪が熱を帯びて存在を主張する。

「オスカー・ラグラスはメリッサ・シルドへの愛を誓うとともに、シルド家のため、ドルッシオ領のために生涯を捧げます」
「メリッサ・シルドはオスカー・ラグラスへの愛を誓い、領地に尽くし、夫婦ともに支え合うことを諦めません」

 誓いの言葉に、二人揃いの指輪が光を発し自然と小指から薬指へと移り飾る。婚姻が成立した証だ。
 神官の成立宣言を受け、参列者の拍手の中を二人手を繋いで外へ歩み出す。

 遠回りしてしまったけど、傷つけてしまったけど。
 泣かせた分だけ、それ以上に、きみを笑わせたい。幸せにしたい。

 僕のせいでつらい目に遭わせた過去は変えられない。
 それなのに僕を選んでくれたきみ。

 ああ、もっとこの想いを伝えるに相応しい言葉があればいいのに。

 扉の外は眩い陽光。
 集まった領民が笑顔で手を叩き、子供たちは飛び跳ねてはしゃぐ。手を振る友人たち、学園の先輩たち後輩たちが僕やメリッサの名前を呼んでいる。
 応えて手を振り返すメリッサのやわらかな微笑みに目頭が熱くなるのを、ぐっと堪えて笑顔を浮かべた。

 魔導の力でそっと吹き上げられた祝福の風に、色とりどりの花びらが僕たちへと舞い落ちる。
 光と花びらに彩られたきみは、より一層美しい。


「きみを、愛してる」


 心からこぼれた言葉は、かすれ、小さく、腕を組み寄り添っているけど聞こえたかどうか。
 許されたとは思っていない。メリッサが心を開いてくれても、僕自身が僕を許せる日は来ないだろう。忘れてはいけない、僕だけは僕を許してはいけないのだ。
 それでもその後悔を抱え、メリッサとともに生きていきたいと願う。


 二人で、幸せになりたい。

 僕はきみの隣で生きていきたい。










< 41 / 41 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:88

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

その鬼は晴れやかに笑って、

総文字数/12,137

ファンタジー22ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
――特別執行委員。 少女は、そして彼らは、そう呼ばれるものに所属していた。 その名の通り学校に設けられた委員会活動のひとつ。 しかしそれはメンバーを集め活動をするための名目であり表向きのこと。 ……実際の活動は公に知られるものではない、つまり名前は何でも構わないのだ、ただそういう組織として存在する、それが事実。 「吹野さん!」 「うんっ」 呼ばれた少女は床を蹴り大きく跳躍する。 紺色の影となって宙を舞い、一閃、鬼を叩き斬った。 窓から差し込む光を受け煌めきながら振り下ろされた刃は、確かに肉を切り裂き、だというのに血飛沫ひとつ散ることなく鞘に収まった。 鬼退治。 秘密裏の活動、それがこの委員会の役目――。
王は断罪し、彼女は冤罪に嗤う

総文字数/8,584

ファンタジー16ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
国王が王妃を断罪した。 それはまるで、何十年と前の、 当時王太子とその恋人だった自分たちが、 婚約者だった少女に行ったのと同じ行為。 国王は見知らぬ少女をはべらせるべく そばに呼び込む。 しかし彼女は、笑って首を振る。 「お好きですわね、真実の愛」 過去、現在と、 大義名分のように国王が口にした 〝真実の愛〟を、嘲笑うのだった。 ----- 「わたしは殺され、あなたを殺す」 と同じ国が舞台です。
婚約破棄、それぞれの行く末

総文字数/7,445

ファンタジー6ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「お前との婚約を破棄するとここに宣言する!」 婚約破棄を突きつけられた令嬢は、 「まあまあまあ! 真実の愛ですのね!」 と、目を輝かせた。 戸惑う王太子だったが、恋人もまた、 「あなたは王太子だったのに、あたしを選んでくれるなんて……!」 と、涙を浮かべた。 王太子、だった、のに? まるで過去の話のようではないか。 これは王太子が真実の愛を勝ち取り、令嬢が夢を叶えるお話。たぶん。  * まあまあ勢いで書きました。 他サイトにも投稿。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop