【受賞・書籍化予定】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?

「はい! 僕にも取ることができるから! 二人の世界を作ってないで、先に進むよ!」
「……エルディス!」
「完全に、僕のこと忘れていたでしょう?」

 暗闇の中でも、ありありとその表情がしかめられているのが想像できてしまう。
 エルディスは、ため息をついて私の前に握りこぶしを差し出した。
 開かれた手の中には、やっぱり輝く星の欠片が閉じ込められていた。

 ……二人は、王国でも五本の指に入る魔力の使い手だもの……。星の光を手に入れることだって、造作もないのかしら?

 そんなことを思いながら、ポケットに注意深く星の欠片をしまい込む。
 魔力が高い人にしか、手に入れることはできないと言われる星の欠片。
 そんな欠片を二つももらった私の、両方のポケットが淡く光り輝く様は、あまりに幻想的だ。

「それにしても、この場所も明らかに魔力で作られているようだな」
「……この場所の景色を作り上げているのは」
「わずかな魔力の痕跡から言って、シルヴァ殿の魔法で間違いないだろう。しかし、先ほどまでの空間とは、明らかに規模が違う。シルヴァ殿の身が心配だな」
「……早く、探し出さなければ」

 美しい景色に心奪われてしまっていたけれど、この空間がオーナーによって作り出されているのだとすれば、いったいどれほどの魔力を消費しているのだろうか。
 この国一番の魔術師と言われるオーナーだけれど、その魔力は膨大すぎて不安定であることを私は知っている。

 銀色の光に照らされて、銀に輝く小さな花々は、踏みしめる度に鈴のような音を奏でる。
 そんな中を、一匹の妖精が、まるで私たちを案内するようにふわりふわりと飛んでいく。

「先ほどから飛び回っているあの妖精は、魔法で作られたものではないみたいだ。ついて来るようにって言っている……」

 妖精と言葉を交すエルディスが、導かれるようにふらりとそのあとについていく。

「行こう、リティリア」
「は、はい……」

 騎士団長様に、そっと手を引かれる。
 私たちは、踏みしめる度に鈴のような音が鳴り響く草原を歩き出したのだった。
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