継母に永遠の眠りの呪いを掛けられましたが、解呪の力を持つ婚約者が訪れることなく二百年の月日が流れて、自力で目覚めた姫は私です。
考える時間を与えないというかのように、コツコツと足音を響かせてこちらへやってくる気配に体は動かない。
ベッドのすぐ前で止まった気配は、一つ深呼吸をしてからそっと布団を剥ぎ取った。
視界に飛び込んできたのは、いつの日かみた空のような綺麗な青い瞳。
被っていたローブのフードを取りながら、驚いた目で私を見つめる二百年ぶりの人と言う存在に声も出ない。
「これは隠れているつもりか?」
爽やかでどこか凛とした声に、耳が妙にくすぐったい。
片膝をついて目線を合わせる青年は私よりも少し年上か、それとも一緒ぐらいだろうか。
自分の目で色々確かめようにも人との関わりを持った時間が流れ過ぎて、そこらへんの感覚が乏しくなっている事に気付く。
何も反応出来ない私に大丈夫とそっと手を握ってくれた。その温もりに何故か妙に心臓が跳ねる。
久しぶりに感じた人の体温に感動しているから……?
分からない心臓の鼓動の速さに困惑していると、青年がゆっくり口を開いた。
「レティア」
「……!」
もう二度と誰にも呼ばれる事の無い名前を、目の前にいる青年が優しく微笑んで口にしてくれた。
嬉しさのあまり涙が滲みそうになる。
「どうして私の名を……」
泣きそうになるのをぐっと堪えて震える声で投げかけると、握られた手に力が込められた。