月下の君には秘密です。
井上家の庭は、
玄関側の通りには面していなくて、俺も訪れるのは久しぶり。
お互い成長してからは、俺が入るのは大体玄関までだったから。
久々に家の裏手にまわると、懐かしい変わらない光景。
視界いっぱいの木々が現れた。
「…相変わらず、植物園だな…」
井上家の庭は広い。
幼い頃の遊び場はいつも決まってこの庭だった。
体が成長した今でも広いと感じるんだから、昔の俺たちには相当遊びごたえがあったんだろう。
木にくくりつけたブランコ。
かくれんぼ、鬼ごっこ。
秘密基地…
そんな事をふと思い出して笑っていたら、隣で月ちゃんも目を細めていた。
時期的に木々の葉は赤や黄色に染まっていて、人だらけの観光地よりずっと良い。
「…紅葉バーベキューね?」
イベント好きの母さん達が考えそうな事だ。
「…晃ちゃん、月ちゃん!早く早く!もうお肉焼いちゃうよ~?」
庭の中心で、井上が菜箸片手に俺たちに手を振っていた。
「いいわよ、あんな寝坊助を待つ事ないわッ。焼いちゃいなさいよ!」
井上の横で俺の母さんがそう急かして、井上の母さんと月ちゃんの母さんが笑い合っていた。